近年の企業活動においては、ITや先進技術への理解が欠かせません。
一時期「まだまだ先だ」「自社には関係がない」と思われていたような、AIやIoTといった先端技術を用いたビジネスは、すでに世界中でスタンダードとなっており、マンパワーが通用する時代は、すでに過去のものになりつつあります。
しかしながら、DX人材は自然に生まれてくるわけではなく、またIT技術に対する知識は一朝一夕に身につくものでもありません。
自社が、これから展開しようとしている事業戦略に、必要となる知識や技能を持った従業員を、都合よく採用できる場面ばかりでもないでしょう。
こうした時代において、近年一気に浸透した言葉が「リスキリング」という言葉です。
この「リスキリング」とはどのような意味とリスキリングを導入するメリットや手順についても、この記事で解説します。
リスキリングの意味と注目される理由
「リスキリング」という言葉の意味は、「新しい知識やスキルを学ぶ」ということです。
このリスキリングは、主に企業が従業員に対して使う言葉であり、2020年のダボス会議において、「リスキリング革命」という言葉が使用されたことで、近年大きな注目を集めることになりました。
このリスキリングが行われるようになった理由としては、いわゆる「DX」つまり「デジタルトランスフォーメーション」が、盛んに叫ばれるようになったことが挙げられます。
このDXによって、企業としてAIを始め、ビッグデータ、IoTといった先進デジタル技術の分野を積極的に推進していくこととなりました。
そのためには、従業員が従来のスキル範囲で対応することが困難と考えられ、新しい時代の新しいビジネスを進めるため、IT知識をはじめとした様々なスキルを身につける、あるいは身につけさせるために「リスキリング」という言葉が注目されるようになったのです。
リスキリングという言葉は先に述べたように、現在非常に注目されている用語であるため、多くの企業がリスキリングのための過程や制度を整備、あるいは検討している状況です。
リスキリングではどのようなことを学ぶ?
リスキリングが、単なる企業内における従業員の「スキルアップ」という意味ではないことについては上の項目で解説しましたが、「リスキリング」において、企業は従業員にどのような教育を施すべきなのでしょうか。
元々「リスキリング」という言葉が広まった経緯を考えると、やはりリスキリングで従業員が身につけるべきスキルというのは「DX」に関連する内容であるといえるでしょう。
例えば日立製作所では、2019年から全社員にDXの基礎教育を実施していますし、富士通においてはDXだけではなく、デザイン思考やマーケット分析などを含めた内容が教育されています。
こうしたリスキリングは、特に企業の業種に関わりなく、様々な分野を担う企業で行われています。
このような状況の背景には、やはり企業の営業活動においてDXというものが決して無視できるものではなく、むしろビジネスの中核を担うために必須の知識となってきているということが挙げられます。
これまでIT技術やDXといった分野に関係がないと考えられてきたような業種の企業にとっても、IT技術やDXといったものを意識せざるを得なくなってきたという状況があります。
そのため、企業にとってもリスキリングの早期の実践と、具体的な内容の検討を進めている企業が増えてきているのです。
リスキリングとリカレント教育の違いとは?
リスキリングという言葉と混同されやすい用語に「リカレント教育」があります。
「リカレント教育」が「教育」という用語を含めていることが、この両者の混同をさらに強めています。
リカレント教育は「繰り返し教育を受ける」という意味を持っています。
このリカレント教育というのは教育方法の一種類であり、業務を行っている社員に対して、一度仕事から離れさせて専門の教育機関で「学び直し」をさせ、また業務に戻るという教育方法を指します。
リカレント教育とリスキリングの違いについては、まず教育分野の違いがあります。
リカレント教育については、従業員個人が学ぶべき、あるいは学びたいスキルについての教育を指すのに対して、リスキリングは「企業が求めるスキルを付けさせるために教育を行う」という視点であることが大きな違いです。
加えて、リカレント教育は、特にリスキリングのように先端技術についての分野に限られません。
この両者の言葉が指す意味の違いを理解することは、企業の従業員教育を担当する人物にとってとりわけ重要であるといえます。
リスキリングをするメリットとは?
リスキリングを導入することで、どのようなメリットがあるでしょうか。
まず、リスキリングを行うということは、その企業の戦略にとって必要となる知識やスキル分野が、はっきりしていることになります。
しかしながら、それに対応できる人材がいないか、もしくは足りていないという状況が想定されます。
そのため、リスキリングは企業にとって必要なスキルを従業員に身に着けさせるという大きな目的・メリットがあります。
DX・IT技術に精通した人間が社内にいない、足りないという場合、企業としてまず想定するのは、新規の従業員の採用となります。
しかしながら、現在そうしたDX・IT技術に精通した人材はどの企業も欲しがっており、慢性的な「人材不足」であるという状況にあります。
そのような中で、すでに社内で業務を行っている社員に対してリスキリングを施すことで、新しい戦略に対応できる人材を確保することができるのです。
このようなメリットがあるリスキリングですが、副次的な効果として、リスキリングを施したことによって、社員に「自らスキルを習得する」という姿勢や企業風土が根付く可能性もあります。
従業員のスキルアップを支援するリスキリングの制度が整うことで、従業員による企業への忠誠心、いわゆる「エンゲージメント」が高まる効果も期待できます。
自社でリスキリングを導入するにはどうすればいい?
では、リスキリングを実際に導入するにはどうすればよいでしょうか。
重要なのは、企業が戦略的に欲しているスキル範囲を明確にし、そのスキル範囲はどのような方法で習得することができるのかということを調査・検討することです。
企業側が、従業員にリスキリングを丸投げしたところで、多くの場合、従業員の側からリスキリングに参加することはありません。
先に述べたような範囲や学ぶ場、方法を企業側がしっかりと整備したうえで、従業員自身に自発的に参加を求めるというような方法が、望ましいといえるでしょう。
適切な「学ぶ環境」が整備されていない状況では、企業側が従業員へ「リスキリングをしろ」と押し付けを行うことは、従業員側から学ぶ意欲を失わせ、リスキリングの導入は失敗に終わってしまう可能性があります。
DX人材やIT技術に精通した人材を、社内で確保するためにリスキリングの導入を検討している企業は、このような点に注意してリスキリングの整備を行っていきましょう。
まとめ
DX人材の教育やIT知識の習得は、もちろん従業員が自発的に身に着けてくれることが、企業にとっては望ましいでしょう。
しかしながら、従業員の学ぶ意欲や個人的努力ばかりに頼ることが、企業として正しい姿勢であるとは言い切れない部分があります。
企業が、戦略的に必要とする知識や技能については、企業が支援する中で従業員からの自発的努力によって身につけてもらうことが、もっともよい結果を導くともいうことができます。
このような行動を促す方法として、リスキリングは有効なのです。
リスキリングの導入を検討している企業は、この記事で解説した内容を参考にし、リスキリングの制度や手順、方法などを整備していってみてはいかがでしょうか。