「認知的不協和」とは?具体例を併せて解説!

人が不快感を感じる場面には、どのようなものがあるでしょうか。

人により様々なシーンで不快感を覚える場面があるでしょうが、例えば仕事中に不快感を覚えると、作業効率や職場での人間関係など、様々な問題が発生する可能性があります。

このような不快感を覚えるシーンのパターンのひとつとして、「認知的不協和」という用語があります。

分かりそうで分からない「認知的不協和」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。

この記事では、認知的不協和と、その例について解説します。

認知的不協和とはなにか

認知的不協和とは、社会心理学にある用語のひとつです。

一言で解説すれば、「矛盾する認知が同時にある場合に発生する不快感・ストレス」のことを指します。

認知的不協和という用語は、アメリカの心理学者であるレオン・フェスティンガーによって提唱された概念であり、人間に認知的不協和が発生すると、人間は発生した矛盾を解消するために、その認知を歪めたり、過小評価したり、態度や行動に表すとされています。

より簡単に言うと、人間の中に二つの欲求があり、その二つが矛盾する要素を内包している場合、その二つのうち一方の要素を変化させることによって、不協和の状態を解消したかのように自分の認知を変化させるという状態です。

代表的な例として「イソップ物語」にある、「すっぱい葡萄」のエピソードがよく引用されます。

これはどういうことかというと、きつねは本来、葡萄を欲しがっていましたが、自分の能力によってその葡萄を入手できないという矛盾状態にありました。

このような状態で、きつねはその葡萄を「自分がほしい葡萄」ではなく「酸っぱい葡萄」であると貶める、すなわち認知を変化させることによって、矛盾の片方であった葡萄を自分にとって無価値なものに変化させました。

その結果「酸っぱい葡萄」は、自分が欲しいものではないため、きつね自身の中に「葡萄がほしいのに手に入らない」という矛盾が存在しなくなったのです。

まさしく、「認知的不協和」の好例といえます。

ビジネスの場面で遭遇する「認知的不協和」の例

先に例示した、「イソップ物語」の「酸っぱい葡萄」のような事例は、ビジネスの場面でも発生します。

例えば「ほしい商品があるが、高額で買えない」という消費者は、珍しくありません。

このような場合においては、消費者は「欲しかった商品」を、「本当は欲しくなかった」と認知を歪めることによって変化させ、矛盾や認知的不協和を解消することが、しばしば行われます。

この他にも、認知的不協和は存在します。

例えば、「年齢と役職」のパターンも多いケースです。

自分と同期であったり、場合によっては自分より年下の人間が、自分よりも早く昇進し、部門長やチームリーダーなどの役職についた場合が挙げられます。

「自分のほうが年上だから本来は自分が昇進するべきであった」という認知と、「実際には自分よりも年下や同期の人間が昇進した」という結果が存在し、その間に矛盾が発生します。

このようなとき、昇進しなかった人間は「チームリーダーのような重責など背負っても何もいいことはない」「部門長は気苦労が多いから、自分は昇進しなくて正解だった」などというように認知の変化を起こすことによって、認知的不協和を解消するのです。

こうしたことも、ビジネスの場面で遭遇する認知的不協和の一例であるといえます。

認知的不協和と就職・転職

若い世代、特に新卒で初めて会社員として就職した人間が、入社当初はやる気に満ちあふれていたのにも関わらず、数ヶ月後には別人のように無気力になってしまい、仕事に身が入らなくなってしまうようなケースもあります。

一般的には、「就職などの環境の変化によって心理的なストレスを抱えて5月病になった」と評価されたり、「仕事のストレスでうつ病になった」などと解釈されることもあります。

しかしながら、このようなケースの中には、認知的不協和が絡んでいる場合があります。

新入社員としては、ずっと入りたかった会社や、憧れていた夢の職業についたということで、入社当初はやる気に満ちあふれていたものの、入社してみると現実には、自分が思い描いていた働き方や仕事内容ではなかったというケースがあります。

その場合、自分の中に「仕事の不快さ・大変さ」と、「望んでいた立場」という矛盾が生じてしまうのです。

こうした認知的不協和は、社員自身がその後にスキルアップしたり業界・会社になじんでいくことで自ら解消するというケースもありますが、そのまま転職してしまったり、退社してしまうようなケースもあります。

新入社員を教育する先輩社員や役職者にとっては、こうした新入社員の「認知的不協和」にもしっかりと気を配っていくことで、社員の離職率を低下したり、パフォーマンスの向上が図れるケースもあります。

認知的不協和を利用したビジネス

社員のモチベーションや業務パフォーマンスといった場面において、課題となることもある認知的不協和ですが、必ずしもマイナス面だけで理解するべきものでもありません。

企業のマーケティングにおいては、消費者の認知的不協和に訴えることによって購入を促したり、サービスを利用させたりするという方向で認知的不協和を利用するケースもあります。

例えば、消費者が「この商品がほしい」という感情と、「高額だから購入できない」という事実によって、認知的不協和を起こしていると仮定します。

このような場合に、「価格を安くする」というのは一般的なマーケティング戦略の中でも下策といえます。

商品価格を安くすれば、見かけ上の成約率は高くなり、販売個数は伸びるかもしれませんが、価格が下がっているので見積もりほどの売上が得られないという結果になってしまいます。

認知的不協和を解決するためには、「価格」に訴求するのではなく、「この商品がほしい」という認知を強化してやれば、「むしろこの価格で買えてよかった」「結果的にはお得だった」と感じさせることができます。

こうすれば、消費者の認知的不協和は解決され、購入行動につなげることができるのです。

そのため、価格はそのまま据え置きとして、商品の高性能さや高品質さ、あるいは商品製造における産地や加工の正確性など、「付加価値」をエピソードとして商品に付け加えることで、認知的不協和を解消させる手法となるのです。

注意するべき認知的不協和

認知的不協和は、先に解説したとおりビジネスに応用することもできます。

しかしながら、商品やサービスを提供する事業者側も人間であり、そこで働いているのもまた人間です。

企業に所属している社員の間にも、認知的不協和は日々積み重なっているものであるという前提が重要です。

認知的不協和は、認知を変えることで矛盾の心理状態を解消するわけですが、都合よくすり替えられる認知ばかりではありません。

認知的不協和に苦しみ、その状態の認知をうまく切り替えることができなかった場合、不協和を抱えた人間にはストレスや不安という形で蓄積していきます。

ストレスが健康に与える影響が大きいことは論を俟たないものですが、企業で多くの人を率いる社長や管理職といった部門長は、自社・次部署の従業員が、仕事上の認知的不協和を日常的に抱えてはいないかといったことにも日々気を配る必要があります。

まとめ

さまざまな場面で、人は不快感や不安を感じることがあります。

その中でも、外的な要因ではなく、自己の内面に存在する矛盾によって不快感を覚えるケースの中には、この記事で解説した「認知的不協和」が関係しているケースもあります。

人が不快感を感じている際には、その不快感の中に認知的不協和が存在していないか、しているとするならばそれは解決可能なものか、といった視点で分析してみると、また異なった解決策が見いだせるケースもあるでしょう。

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