「カスタマーハラスメント」という言葉をご存知でしょうか?
「カスタマーハラスメント」は、顧客や取引先という立場を使って従業員に対して嫌がらせや理不尽な要求をすることを指します。
「カスタマーハラスメント」は、十分な対策を行わないと、従業員の離職や、最悪の場合企業側が違反行為とみなされる場合もあります。
パワハラやセクハラといった「嫌がらせ」行為は、世の中にずいぶん周知され浸透してきました。
しかし、それだけではなく、「カスタマーハラスメント」のような他の態様の「嫌がらせ」行為もあります。
かつてはなんとなく社会に許容されてきたものについても、「○○ハラスメント」と名前が付いたことで世の中に周知され、忌避される行為と理解されてきています。
お酒の席での嫌がらせを指す「アルハラ」などが好例といえるでしょう。
「カスタマーハラスメント」とはどのような嫌がらせなのかについて、この記事で解説します。
カスタマーハラスメントとは何か
カスタマーハラスメントの特徴
- 顧客・取引先という立場におけるハラスメント
- 嫌がらせをする人物が有意な立場を持っている
- 優位性を盾に無茶な要求や悪質な要求、理不尽なクレームを行う
カスタマーハラスメントとは、「顧客」「取引先」という立場におけるハラスメントを指します。
一般に、顧客や消費者からの従業員・社員に対する嫌がらせのことをいいますが、このような行為が「カスタマーハラスメント」と理解されるには、「顧客や取引先である」という立場の優位性を盾にしているということが一定の要件として理解されています。
「ハラスメント」という行為はその多くが、嫌がらせをする人物が、相手に対して優位な立場を持っていることが多く、パワハラなどではパワー、つまり権力や地位などがその優位性となります。
そして、カスタマーハラスメントは
- 「自分は顧客、または取引先である」ということ
- 相手にとって無碍に扱うことができない立場の人物であるということ
を相手に対する優位性として盾にし、無茶な要求、悪質な要求や理不尽なクレームを行うという特徴があります。
カスタマーハラスメントとクレーム・苦情との違い
カスタマーハラスメントとよく似た態様の行動として、「クレーム」が挙げられます。
しかし、苦情やクレームというものは、一般的に嫌がらせを目的としたものではありません。
本来の苦情やクレームという行動は、「本来受けられるべきサービスが受けられなかった」「期待した水準の結果が得られなかった」ことに対して、サービスを向上させてほしい、品質を改善してほしい、損失分を補償してほしいなど、「なんらかの要求・依頼」が背景としてあります。
つまり、クレームは広い意味では顧客や取引先による「改善要求」であり、言い方や態度が強いものであったとしても、そこにはゴールが設定されているものです。
一方でカスタマーハラスメントは、本来の正当な要求の範囲を越えて、執拗に謝罪や不必要なまでの賠償を求めたりする行動を指します。
つまり、嫌がらせそのものが目的であって、何らかの改善や品質向上を目的とした「要求行為」ではないのです。ここに、明確な「苦情・クレーム」との違いがあります。
また、仮にカスタマーハラスメントに具体的な要求行為が含まれていたとしても、たとえば次のような明らかに不当な要求行為である場合もあります。
カスタマーハラスメントに当たる要求の例
- 「社長が謝罪に来い」という要求
- 「(一般的にその水準に達していないにもかかわらず)精神的苦痛を受けたから慰謝料を出せ」などという要求
このようなものも、クレームや苦情とは明確に区別する必要がある「カスタマーハラスメント」の一種であると考えるべきでしょう。
カスタマーハラスメントが発生する理由と背景
具体的な改善要望などは何もなく、ただ謝罪や賠償といった不当要求を繰り返すカスタマーハラスメントは、いったいどのような理由で発生するのでしょうか。
このような行為は、具体的な要求がないこと、つまり、「何か得をしたい」というわけではないことに注目する必要があります。
例外はありますが、カスタマーハラスメントを行う顧客や取引先が求めているのは「嫌がらせをしてやりたい」「困らせてやりたい」という情緒的な部分です。
つまり、具体的には謝罪させること、大声で怒鳴りつけることなどの行動そのものが目的なのです。
そのため、金銭的、あるいはサービス品質などなんらかの条件によってカスタマーハラスメントを抑止することは難しいと言わざるを得ません。
このような行動は一見理解しがたいものですが、その背景には「ストレス」が関わっているという指摘があります。
つまり、自分自身のストレスのはけ口として、自分に逆らわないであろう相手、ハラスメントをしても反撃をしてこないであろう店舗のスタッフや取引先の従業員などに嫌がらせを行うということです。
そして、このような行為がひとたび行われると、ある人物のカスタマーハラスメントによって受けたストレスを、さらに別の人物へ行われるカスタマーハラスメントで晴らすという負の循環が形成されることがあります。
効率主義や雇用の不安定、不景気、そしてコロナ禍など、社会的にストレスが多い世の中においては、ストレス発散がなかなかできずに、溜め込んだストレスをカスタマーハラスメントによって晴らす人が増加しており、カスタマーハラスメントとされるような事例も年々増加傾向にあります。
カスタマーハラスメントの態様と被害事例
では、カスタマーハラスメントとは具体的にどのように行われるのでしょうか。
まず最も多いパターンとしては、たとえばコンビニや小売店、飲食店などのスタッフに対して、延々と誹謗中傷や罵倒を行うというような態様が知られています。
カスタマーハラスメントの事例として、以下のようなものがあります。
長時間対応させられるスタッフや従業員への精神的負担が大きく、人によってはうつ病や自律神経失調症など、健康を損なうような損害が発生するケース
- 「土下座をさせる」
- 「謝罪している様子をスマートフォンで撮影する」
- 「SNSなどで誹謗中傷する」などの
「強要・脅迫」に該当するような行動が採用されるケース
こうしたカスタマーハラスメントによって発生する損害は、従業員本人だけではなく、企業にも次のようなダメージを与えます。
カスタマーハラスメントにによる企業へのダメージ
- 企業のイメージダウン
- 従業員の離職
- 安全配慮業務違反
- 業務の遅延
- 業績の悪化
イメージダウンなどは想像しやすいですが、それだけではなく、カスタマーハラスメントの対象となってしまった従業員が離職したり、悪質なクレームによって重度のストレスを受けた従業員に対する「安全配慮義務違反」という違反行為とみなされるケースもあります。
また、カスタマーハラスメントによって長時間従業員が拘束されることによる業務の遅延、それによる業績の悪化も無視できない損害といえるでしょう。
カスタマーハラスメントへの対策
このように、様々な不利益や損害が発生しうるカスタマーハラスメントに対して、企業はどのように対策を行うのがよいでしょうか。
企業が行うべき対策は以下3点です。
企業が行うべき対策
- 従業員1人出はなく複数人で対応する
- クレームや苦情なのかカスタマーハラスメントなのかを明確にさせる
- 証拠保全を行い第3者への相談を行う
まず、従業員が通常の対応を行っても事態が収束しないような顧客・取引先が発生した場合に、それ以上その従業員一人で対応させないという体制の整備が重要です。
これは、従業員の精神的負担を軽減する意味合いもありますが、それ以上に、複数の人間で対応することにより、冷静な対応をさせるためです。
そして、現在直面している顧客とのやりとりが「クレーム」や「苦情」によるものなのか、「カスタマーハラスメント」に該当するものなのかを明確に判断します。
この判断には、マニュアルの策定や複数回にわたる研修が重要です。
カスタマーハラスメントと認定しうる場合には、必要に応じて録音や録画といった「証拠保全」を行い、第三者、特に警察や弁護士への相談を行います。
企業として向き合うべき「顧客」や「取引先」なのか、そうではなく脅迫や強要をしてくる類の相手なのかという判断がどれだけ迅速にできるかが、カスタマーハラスメントへの対策においては非常に重要なのです。
おわりに
現代はストレスの多い社会です。
どこかで発生したストレスによって、元来はハラスメントなど行わないような人が、カスタマーハラスメントの加害者となってしまう場合もあります。
その背景には同情すべきものもありますが、そこに寄り添うのは顧客や取引先として対応している従業員の役割ではありません。
企業としては、自社の従業員を守り、カスタマーハラスメントの被害を極限まで減らすことこそが、カスタマーハラスメントへの正当な向き合い方であるといえます。