企業が、自社の商品やサービスを一般消費者に展開していく中で、消費者はどのような行動を取るのか、そうした行動が、どのように自社の商品やサービスの購入・利用につながっていくのかということを分析していくのは、マーケティングの基礎ともいえます。
こうした行動分析は「行動心理学」という学問として整理されていますが、その中でも、「ヒューリスティック」という用語・概念は、多くの人が理解しやすい行動概念のひとつです。
この記事では、ヒューリスティックとは何なのか、ヒューリスティックが起こった際にどのような結果に結びつく可能性があるのかについて解説します。
ヒューリスティックとは
ヒューリスティック(heuristic)という言葉は、心理学用語で「発見的手法」とも呼ばれます。
この手法は、一言で言えば「先入観・経験などに基づいて、正しそうな結論を見つける方法」のことをいいます。
つまり、明確な根拠や数字、データなどではなく、これまで生きてきた中で経験してきたことや、予想などを見てある程度その状況を説明するのに正しいと思われる回答を導くことです。
具体的には、空を見ていて遠くから雲が迫ってくるのを見て「これから雨が降るだろう」という結論を導くのが、ヒューリスティックです。
雲を見た人が、天気図による雨雲の動きや、見えている雲の種類、周辺の地形や気象条件といった、「データ」に基づいて気象予報をしたのではなく「今見ているような空模様は、これまでの人生の経験からなんとなく雨が降りそうだ」という予測に基づいた結論です。
ともすれば「思い込み」や「単なる予想」ともいえるようなこのヒューリスティックにも、様々な種類と効果があります。
ヒューリスティックの「種類」
ヒューリスティックは先程解説したように、明確な数字やデータに基づくものではありません。
しかしながら、このヒューリスティックにも、様々な種類があります。
まず、わかりやすいのが「代表性ヒューリスティック」です。
代表性ヒューリスティックとは、「代表的なイメージをもとづいて判断すること」を指します。
例えば、金髪で背が高く、目が青っぽく見える人がいるのを見つけ、外国人だと思った、という思考です。
次に、「想起ヒューリスティック」というものがあります。
これは、自分がよく触れる情報、身近で印象的なものに判断を委ねることをいい、買い物の際によく見るCMの商品を選択するなどが挙げられます。
続いて、「係留と調整ヒューリスティック」というものもあります。
これは、最初に入手した情報を重要な情報として位置づけることを意味します。
具体的には「もともと2,000円の商品が500円引きで1500円となった」という商品と、「最初から1500円」の商品では、全社のほうが「お得」であると感じるような現象を指します。
次に「感情ヒューリスティック」というものもあります。
これは、対象に対する感情に基づいて、メリットとデメリットに変化が生まれることを指します。
好きなものは、メリットを高く評価してデメリットを低く見積もり、嫌いなものは反対に評価するといったことを指します。
最後に「シミュレーション・ヒューリスティック」というものもあり、自分の中で「いままで○○であったから、次も○○だろう」という予測や、「○○という出来事は、○○という理由からだろう」といった先入観に基づく判断をすることを指します。
マーケティングとヒューリスティックの関係
企業が商品やサービスを消費者に提供するにあたって、ヒューリスティックもまた重要な要素となります。
例えば、何度も商品名を繰り返し読み上げたり、印象に残りやすいCMソングなどを制作して放送するというのは「想起ヒューリスティック」に訴えかけるものです。
加えて、ECサイトなどでも見かける「期間限定値引き」の際に元の値段が記載されていたり、いくら値引きとなっているのかなどが表示されるのは「係留と調整ヒューリスティック」へ訴えかけるためのものです。
このように、ヒューリスティックを自社の商品紹介のCMや、サイト上での商品紹介などで利用することで、少しでも消費者の印象に残り、購入や購買行動につながるようにするよう、ヒューリスティックは様々な場所で活用されているのです。
これほどヒューリスティックが多い理由とメリット
なぜ、これほどヒューリスティックというひとつの概念に対して様々な種別があり、またヒューリスティックは様々な場面で利用されているのでしょうか。
その中のひとつの答えに「結論を導くにあたり、関連する情報の多さと比較して時間が少ない」という現代ならではの理由があります。
現代においては、ウェブサイトや比較アプリ、ツール、口コミサイトなど、商品やサービスの実態を探るためのツールや情報は非常に多くあります。
SNSやオフラインでの口コミなども含めると、さらにそのチャネルは多くなりますが、商品やサービスを選定する消費者にもまた無限の時間があるわけではなく、すべての情報をつぶさに精査することは難しいという問題があります。
このようなことから、すべての情報にアクセスしたわけではないものの、取り入れられた複数の情報から、「正解に近いように思える」という結論を選ぶというヒューリスティックが消費者の間に広がっています。
その結果、ヒューリスティックに基づいて判断する消費者に対して、ヒューリスティックを起こさせるようなマーケティングが行われているというサイクルが完成しているのです。
ヒューリスティックには、もちろん問題点もありますが、意思決定において、ヒューリスティックによる意思決定は、すべての情報にアクセスして検証したうえで判断を下すよりも、圧倒的にスピードが早いというメリットがあります。
ヒューリスティックに対する注意点
ヒューリスティックを活用することが、自社の製品やサービスの利用に消費者を誘導できる可能性が高いことが判明すると、数多くの企業がヒューリスティックを利用したマーケティ
ング戦略を展開することになりました。
しかしながら、こうしたヒューリスティックは、あくまで消費者の意思決定と行動を促すための心理に訴える戦略であり、何にでも活用するという趣旨のものではありません。
特に、わかりやすいのは、「係留と調整ヒューリスティック」であり、通常価格と割引価格を併記して「お得感を出す」という広告には細かいルールが定めてあり、こうしたルールを守らずに活用してしまうと、景品表示法に違反してしまう可能性もあります。
企業としては、こうしたルールを守りつつ、必要な局面に限ってヒューリスティックを利用することや、ヒューリスティックを利用した結果、消費者に「結果的に損をした」というような、自社に対するネガティブなイメージを与えてしまわないような工夫が必要です。
具体的には、商品・サービスの展開を心がける必要があります。
逆に考えれば、そうしたルールを設けなければならないほどに、ヒューリスティックは強力に消費者の消費行動に影響を与えうるということを意味しており、適切な利用は企業の責任であるともいえます。
まとめ
消費者の行動や心理を、自社の商品やサービスを利用するように誘導していくというマーケティング戦略は、あらゆる企業にとって常時、頭を悩ませている問題であるともいえます。
ヒューリスティックは、消費者の行動や意思決定に大きく影響を与える行動となります。
一方で、利用をするにはしっかりとした理念や、法令遵守といった倫理観が必要となります。
自社で、ヒューリスティックを活用した広報・マーケティング戦略を展開する場合には、どのような場面で、どのような方法でヒューリスティックを活用するのか、そしてどのような結果を目指すのかということを明確にして利用していきましょう。