現代の日本では、少子化による人口の減少や東京圏への人口の過度の集中、都市部と地方の経済格差などが問題となっています。
そこで、それぞれの地域で住みやすい環境を提供し、将来にかけて活力ある日本社会を維持していく「地方創生」という取り組みに力を入れ出したのです。
地方創生とは、具体的にどういった取り組みをしているのか、また、課題や問題点は何なのかをこの記事で解説していきます。
地方創生とは
地方創生とは、都市と地方の経済格差を無くし、人口減少を食い止めつつ地方を活性化させるための政策です。
日本では長い間、東京を中心とした都市に企業や人が集まり、その流れに巻き込まれるかのように地方からは人やモノ、お金が流出しています。
そのため、後継者不足による産業の衰退など、様々な問題を引き起こしているのです。
また、元々地方経済の主役はサービス業であり、地方経済の大きな特徴は、地元密着型で公共性が高く、社会全体から見ると地方の雇用を確保する役割を果たしていることです。
しかしながら、ここ数年では、少子高齢化や生産年齢人口の減少による「人手不足」によって、雇用を確保する役割が揺らいでいます。
人手もサービスも多く、公共性が高くて競争する必要の無かった地方は、人手不足解消のために優秀な人手を都市から呼ぶこと、サービスの質を上げて賃金を上げなければ、地方経済が衰退する一方であることに気が付いたのです。
地方創生とは、地方経済における人手不足を解消し、サービスの質と賃金を上げることを目標とした政策だといっても良いでしょう。
地方創生の目標
2014年に内閣は、まち・ひと・しごと創生総合戦略の推進を図るため、まち・ひと・しごと創生本部を設置しました。
その中の基本となる「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、地方創生の取り組みとして主に下記の4つの基本目標と、2つの横断的目標を掲げています。
2021年に、新たに加わった政策などを踏まえて説明していきましょう。
・稼ぐ地域をつくるとともに、安心して働けるようにする
先ほど、地方経済は人手不足と賃金の低さが深刻だとお話ししました。
内閣は、地方創生の要とも言える問題点を、設備投資、IT 導入を検討し、中小企業の生産性向上を促すこと、地方公共団体の職員等の研修、ワークショップ等のオンライン活用を支援することで賃金の低さを解消しようと考えました。
加えて、地域の人手不足については、東京圏を中心とした「地域への優秀な人材の送り出し」に企業が取り組むことを促進する政策を立て、課題の1つとしています。
・地方とのつながりを築き、地方への新しいひとの流れをつくる
地方から都市部へ移動は増えているものの、地方へと人が流れる様子は非常に少ないです。
そこで内閣は、地方移住の推進や、修学・就業による若者の地方への流れの推進について新たに考えたのです。
東京圏への一極集中を是正するテレワークの推進や、UIJ ターンによる起業・就業者の創出、全国において、地方公共団体と民間のサテライトオフィスの整備を着実に進め、地方へのひと・情報の流れをより強力に推進しています。
そして、ふるさと納税の活用を促進させることで地方と都市の繋がりを作り、地域の活性化に結び付けたのです。
・結婚・出産・子育ての希望をかなえる
生きていく上で、ライフステージに応じた総合的な対策についても取り組みが必要です。
加えて、少子化が大々的な問題になっているため、少子化の対策も含まれなくてはなりません。
内閣は、結婚後の新生活への経済的支援や、不妊治療への保険適用等の妊娠・出産への支援や男性の育児休業の取得促進、男女ともに仕事と子育てを両立できる環境の整備、幼児教育・保育の無償化の着実な実施を含む経済的な支援等を行うことを考えました。
その後は、男女のワークライフバランスを考慮するために、管理職・役員となる女性の育成や、学び直しやキャリア形成の支援を行います。
つまり、「新たな日常」に対応するために、女性を主に支援することを目標にしたのです。
・ひとが集う、安心して暮らすことができる魅力的な地域をつくる
人が住まうためには、安心感と住まうための理由が無ければなりません。
加えて、地方へ人を集めるには、都市部との差別化を図るのが、重要となるでしょう。
そのため内閣では、地方の魅力的な景観・街づくりの取り組みを支援するとともに、駅周辺などの公共的空間の再構築に向けた対策を実施しています。
さらには、地域公共交通計画等の策定を推進し、過疎地等における移動手段の確保、銀行など基盤的なサービスの提供の維持や過疎地域等において、既存施設を活用するために、新しい働き方に対応したワークスペース、防災・減災に資する施設に係る改修等を支援を決定しました。
このほかにも、横断的目標が2つ掲げられています。
・多様な人材の活躍を推進する
日本の総人口の減少に加え、働ける世代が地方から都市部へと流出することで、地域の過疎化が進行しています。
地域の過疎化が進行すれば必然的に地域人口は減りますし、経済活動が減退して地域の発展、存続が難しくなっていくのです。
そのためには、人や産業の東京一極集中を一刻も早く止め、都心部から地方へ流れをつくり、地方に人口を分散させる必要があるのです。
・新しい時代の流れを力にする
近年、新型コロナウイルス感染拡大の影響で社会全体へリモートワークが浸透し、場所にとらわれず働ける環境が整備されました。
それと同時に、都市部へオフィスを必要としない考え方も広まっています。
地域資源が豊富で、都内よりもコストがかからない地方への移転や、移住をする動きが活発になっているのが現状なのです。
今後の可能性として、簡単に再現できない歴史文化や自然がある地方の魅力を生かし、地域の注目を集める取り組みが重要になるでしょう。
地方創生の4つの基本目標・地方創生の2つの横断的目標 参考:内閣官房・内閣府総合サイト まち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」「総合戦略」「基本方針」より
参照URL:https://www.chisou.go.jp/sousei/mahishi_index.html
ビジネスに地方創生をとり入れるメリット
地方創生とビジネスは切っても切り離せない縁がありますが、具体的にはどのようなメリットが発生するのでしょう。
まず、自治体や地元民からの支援を受けられる事業を展開する地域では、補助金・助成金の支給などが挙げられます。
当たり前ですが、その地域の活性化に貢献すれば、地元民からも支援を受けられ、事業の収益性だけに頼らずに経営を続けられる見込みが出てくるのです。
加えて、首都圏に比べてコストを軽減しやすくなる点も、地方で事業を展開する大きなメリットと言えます。
地方へ進出すれば中小企業がありふれた首都圏や都会とは違い、競争が激しくない環境でゆったりと事業に取り組むことができ、競合相手がいなければ、毎月多額の広告宣伝費をかける必要もありません。
最後に、地方創生の概念は投資家にも浸透しつつありますので、地域活性化を事業にとり入れると、投資家から注目される可能性があります。
地方への進出を検討しているのであれば、投資家の存在もしっかり意識しておくべきでしょう。
地方創生をビジネスに取り入れて成功させる5つのポイント
地方創生に携わる上で、
・地域が持つ資源をそのまま活用する
・地域への優秀な人材の送り出しに取り組む
・他の地域での成功例をそのまま使用しない
・中長期的な計画を立てて焦らない
・地方の人口を増やすことに固執しすぎない
上記、5つのポイントを押さえておけば良いのは何故か、解説していきます。
地域が持つ資源をそのまま活用する
使用されていない場所を見つけて本来とは異なる使い方をするなど、工夫次第では地域の持つ資源が一段と魅力的になります。
新しい施設へ開発コストをかける方法もありますが、地元の事業者や住民に負担がかからないためには、今ある地域資源をどう活用するのかが、重要といえます。
地域への優秀な人材の送り出しに取り組む
地域の人口減少や東京一極集中を止めるために、スキルや熱意を持った人材と地方が出会う必要があります。
人を地方へ動かしたいとなれば、地域が持っている課題や魅力を包み隠さず公開し、協働できる事業や計画の情報を発信する場を設け、積極的に地域で活躍できる方々と力を合わせていくのが大切です。
他の地域での成功例をそのまま使用しない
地域の魅力や課題は、地域ごとで異なります。
成功要因を細かく理解するのは必要ですが、他の地域で成功した事例をそのまま使用するのはあまりおすすめできません。
中長期的な計画を立てて焦らない
地方創生は、短期的に目標を達成することは叶いません。
むしろ、目的を見失わないために長期的な計画を立て、時には調整を重ねつつ、地道に関係構築と活動を行う方が大事でしょう。
地方の人口を増やすことに固執しすぎない
地方創生の課題は、人口減少の歯止めです。
しかしながら、人口を増やすことに固執しすぎることで、魅力的なまちづくりという本来の目的から反れる可能性があります。
地域の魅力を知る、そこで生活するイメージを持つ、地域への関心を高めることへ重点を置く政策の方が、定住に繋げることができます。
まとめ
地方創生は、都市部と地方の経済格差を無くし、人口減少に歯止めをかけ、地方を活性化させるための政策です。
東京から優秀な人材を地方へ送る、オフィスを地方へ移す、地域ならではの資源を活用する計画を立てるなど、どれも現実的でありながら、実行するには難しい政策だと思われるかもしれません。
しかしながら、地方創生を元にしたビジネス展開が出来れば、経営には良い意味で大きな影響を与えることが可能です。
自社が地方創生に向けて何を取り組めるのか、少しばかり目を向けてみるのも良いのではないでしょうか。