近年では、世界的に環境問題が論じられることが多くなりました。
二酸化炭素排出量の削減にかかわるカーボンニュートラルといった用語や、太陽光・風力などを活用した「再生可能エネルギー」や「リサイクル」という言葉もすっかり日常に定着しつつあります。
リサイクルには様々な意味合いがあり、不用品を引き取って再販売したりすることもリサイクルと呼ばれるほか、プラスチック包装材、紙包装などを回収して再生プラスチック・再生紙などとして再度製品利用することもリサイクルと呼ばれます。
このような用語と類似する言葉に、「アップサイクル」という言葉があります。
この記事では、「アップサイクル」とは何か、そしてアップサイクルがなぜ現代において重要であるのかについて解説します。
アップサイクルとは
アップサイクルとは、不要となった製品を、「より良い品質・環境価値の高い材料や製品にアップグレードして利用する」というプロセスのことを指します。
アップサイクルは、不要になった素材の特徴を活かして新たなものに利用するという特徴を持ちます。
アップルサイクルとダウンサイクル、リサイクルの違い
アップサイクルと似た意味をもつ言葉に「ダウンサイクル」と「リサイクル」というものがあります。
特にダウンサイクルは、アップサイクルと対となるものです。
ダウンサイクルは、材料や製品をより低品質の新しい材料に再生することを意味しており、先に挙げた再生プラスチックや再生紙などは、ダウンサイクルに類別される概念です。
このほか、古着などを回収して、雑巾として再利用したり、生ゴミなどを活用してバイオマス利用するなどのケースもこれに該当します。
リサイクルとは、「再生利用」のことを意味します。
より具体的には、先に解説したような、プラスチック包装の再利用や、紙資源の再生紙による利用などが、それにあたるでしょう。
こうした資源の再利用について、その態様によってさらに類別したものが「アップサイクル」と呼ばれるプロセスです。
こうしたプロセスは、もともと製造された製品を、より低レベルの場面で再度活用して資源にするという思想であることから「ダウンサイクル」と呼ばれています。
ダウンサイクルで生み出された原料や資源は、さらに低レベルの場面で活用できる場合もあり、このように多段階的に利用することを「カスケード利用」と呼ぶこともあります。
アップサイクルというのは、このダウンサイクルとはまったく反対の意味を持っています。
アップサイクルの具体例
アップサイクルは「創造的再利用」と呼ばれることもあります。
何かに利用した製品を、低レベルに再利用するのではなく、副産物や廃棄物を使って、新たに「利用することができる製品」をつくり出すことをアップサイクルと呼びます。
使用済みの木製パレットを使って、椅子などの家具を作ることは代表的なアップサイクルの例といえます。
加えて、食品として消費されなかった食材を使って酒を醸造したりといった利用もあります。
このほか、ファッション・アパレル業界では、デッドストックとなっていた在庫品に新たなブランドを創設して販売することを、アップサイクルと呼んでいたり、古くからある建物を倉庫として、再活用するなどの大規模なアップサイクルも、現代では珍しくありません。
車の廃材であるシートベルトやエアバッグなどは、アップサイクルの宝庫といえます。
これらを原料として、新しいレジャーシートやリボンなどに作り変えるなどの取り組みも積極的に行われています。
アップサイクルが現代で重視される理由
リサイクルという用語は、近年のように「SDGs」や「サステナビリティ」といった用語が喧伝される以前から使用されてきました。
では、なぜいま「アップサイクル」という用語が、脚光を浴びているのでしょうか。
その答えは、アップサイクルというプロセスが持つ「なるべくそのままの形で活用する」という特徴にあります。
一般的にリサイクルなどは、プラスチックや再生紙でイメージすると分かりやすいですが、一度回収した廃材を溶かしたり、科学的処理を施したりして原型を失わせたうえで、再度何らかの原料として加工します。
これは、リサイクル後の原料の選択肢が増える一方で、その再処理の工程にもエネルギーを必要としたり、再処理の工程で薬品や有毒な廃棄物が発生しうることを意味しています。
アップサイクルも、もちろん「まったく何の処理もしない」というものばかりではありませんが、基本的にはなるべく元の形のままで使える加工を施すことを目的としているため、リサイクルの工程における環境負荷をさらに低減することができます。
このようなことから、アップサイクルはこれまでのリサイクルとは別の扱いで脚光を浴びているのです。
アップサイクル、ダウンサイクルとサステナビリティ
「サステナビリティ」は、「持続可能性」と訳されます。
近年様々な企業や自治体が取り組みを発表しているサステナビリティにおいては、持続可能な社会や製品製造などが重要視されています。
もちろん、リサイクルはサステナビリティを担う一端であり、それがダウンサイクルであったとしても、ただちにサステナビリティが否定されるものではありません。
しかしながら、例えば再生プラスチックや再生紙は、一度回収してリサイクルの工程を減らすことで、元のものよりも価値や質が下がることを意味しており、やがてはゴミとなります。
そのため、「継続性に欠ける」という評価が、なされてしまうこともあります。
アップサイクルの製品は、質を下げて再利用するのではなく、不用品を再度製品として活用することを意味していることから、「価値や質を下げずに製品を生み出す」という意味で、現代のサステナビリティの価値観に沿っていると評価できるプロセスなのです。
アップサイクルとファッションデザインの関わり
先に解説した、「パレットから椅子を生み出すアップサイクル」の項目にその一端が見えますが、アップサイクルというプロセスと、アートやデザインの領域との交わりも現代では、増えてきています。
特に、ファッションデザインの領域では、こうしたアップサイクルが大いに注目されてきており、スイスのブランドである「フライターグ」では、自動車のシートベルトや自転車のチューブを活用したバッグを生み出しています。
加えて、フィンランドの「グローブホープ」では、軍用製品のうち古い素材を、民間向けのカジュアル製品として、アップサイクルにより製品を生み出した実績があります。
一般の消費者の手に「リサイクル品」ではなく「新しい製品」として、こうした製品が届けられることは、サステナビリティをより一般消費者に対して身近に印象付けることができ、さらに古い製品の再活用ができるという、まさに一石二鳥の効果を生んでいるのです。
まとめ
環境問題が叫ばれてから、リサイクル、リデュース、リユース、サステナビリティ、リメイクなど、様々な用語が生まれてきており、それぞれを理解することはなかなか難しいものです。
しかしながら、これまでのリサイクル製品・リサイクル工程とは明らかに異なる概念が、この「アップサイクル」というプロセスです。
古いものを処理して原料にする、というリサイクルの工程は、必ずしも無用な取り組みではありませんし、SDGsを考えるうえで重要な要素なのですが、元のものよりもさらに価値を高めるという視点は、アップサイクルならではのものです。
消費者に与える印象としても「結局、一度使われた古いもの」という印象を、与えがちなリサイクル品とは、明らかに異なることが容易に想定できます。
資源の節約や環境負荷の低減を実践していかなければならないという、これからの時代における製品製造・販売において、この「アップサイクル」というプロセスは、今後さらに重要性を増していく用語であることは間違いないでしょう。