現代の日本企業においては、どの企業も「人材不足」に陥っています。
もちろん、日本が高齢社会に突入したこともあり、労働人口そのものが、減っているという背景もあります。
しかしながら、それ以上に、企業において「現場の業務をこなす非正規社員」は居ても、企業の業務の中核を担う「正規社員」が少ないことが、問題視されているのです。
このような背景の中、現代では「プレイングマネージャー」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。
この「プレイングマネージャー」とはどのような存在なのか、「プレイングマネージャー」が増えていることに課題はないのかという点について解説します。
プレイングマネージャーとは?
一般に、企業においては、「自分自身で成果を挙げ、業績に貢献する人」のことを「プレイヤー」と呼びます。
これに対して、プレイヤーである社員の統括・管理・調整などを行う人のことを「マネージャー」と呼びます。
「プレイングマネージャー」は、この両者を合わせたような言葉ですが、まさしくプレイングマネージャーとは、プレイヤーとマネージャーの両方の役割を担う人材を指します。
つまり、プレイヤーとして営業成績を出しつつも、マネージャーとして管理的業務も行う人材のことを指しているのです。
本来は、プレイヤーとマネージャーは別の人が担当し、両者の役割は明確に分けられているという企業が一般的でしたが、近年の企業では「プレイングマネージャー」とされる位置づけの社員が現場を回しているというケースが多く見られます。
このような状況となっている理由には複数の要因がありますが、やはりその最大の要因としては、「人員不足」が挙げられるでしょう。
プレイングマネージャーに求められる役割
日本企業においては、かつての好景気の時代には、各企業が充分な人員を配置して、プレイヤーとマネージャーを分けておくことができる企業が大半でした。
しかしながら、バブル崩壊後に全体的に景気が後退し、その結果「リストラ」という言葉が社会的に広く使われるようになり、人件費の削減、その結果として人員の解雇が大規模に行われました。
そして、そのような人件費の削減と人員の解雇を行った結果、部署ごとに管理職とプレイヤーとしての社員を別々に配置しておくという体制を維持しきれないケースが発生した結果、それまで「マネージャー」が行ってきた業務をプレイヤーが代わって行うケースが生まれたのです。
このような「プレイングマネージャー」に求められる役割は非常に多岐にわたり、まず「プレイヤーとしての個人の成果創出」があります。
プレイングマネージャーは、あくまでプレイヤーでもあることから、個人の営業成績に対するノルマが免除されるわけではありません。
そして、「チームの業績を牽引する」という役割もあり、自分一人が目標を達成しているというだけでは、プレイングマネージャーとしては不十分であり、チームメンバーや部署の人員がチームとしての目標を達成できるよう、目標設定・統率をする必要があるのです。
また、「メンバー間やチーム全体のマネジメント」もあります。
各メンバーの業務に対する知識を伝達したり、部門長との間の連携・共有、メンバーのモチベーション管理などが加わってくる場合もあるでしょう。
このほか、マネジメントの一環として、新入社員やアルバイト・パートタイムの人員へ業務検収や教育を行うことも、プレイングマネージャーに求められる役割となるケースがあります。
このように、プレイングマネージャーは、プレイヤーとしての自分の成果と、マネージャーとしてのマネジメント業務との両方を担当しなければならず、一般的には大きな負担を背負うことになります。
社員がプレイングマネージャーとなるメリット
このように、プレイングマネージャーとなることは、該当社員にとっては単純に負担が増加するという大きなデメリットがあるのですが、それではメリットとしてはどのようなものがあるでしょうか。
まず、該当社員に「マネージャーとしての経験を積ませることができる」ことが挙げられます。
将来的に管理職となる予定の社員に対して、プレイヤーとしての業務をさせつつ、マネージャーとしての経験を積ませることができます。
加えて、管理職が現場の状況をわかっていないことによって、現場社員とのコミュニケーションが上手くいかないこともしばしばあります。
しかしながら、プレイングマネージャーの場合は、あくまでプレイヤーとしての業務を行いながらマネージャー業務を行うため、コミュニケーションが上手くいかないということは起こりづらいといえるでしょう。
一方、企業側としてもメリットがあります。
プレイングマネージャーは、いわゆる「管理職」としての配置ではなく、あくまで「プレイヤー+マネージャー業務」という意味での配置であることがほとんどです。
このような配置方法の場合、労働基準法上の「管理職」としての配置ではないため、人事配置や雇用契約などをしやすかったりという利点があります。
一方で、労働基準法上の管理職として位置づけたうえで、プレイングマネージャーという配置にすることで、労働基準法上の管理監督者には残業代が支給されないという制度によって人件費の削減を狙う企業もあります。
しかしながら、これはメリットというよりも「抜け穴」であり、こうした待遇を従業員が快く受け入れるケースは稀だといえます。
管理職候補として配置する場合の注意点
一方、先に例示したように、管理職候補として一時的に「プレイングマネージャー」という配置方法を選択するケースも少なくありません。
このような配置の場合には、どのような点に注意するのがよいでしょうか。
まず、あくまでプレイングマネージャーという立場は一時的なものであり、今後該当社員は管理職となるのだという前提を、該当社員本人がしっかり認識することが必要です。
例えば、業務現場における判断において、プレイヤーとしての判断と、マネージャーとしての判断に、差が出るのは当然です。
プレイングマネージャーとして配置しているのにも関わらず、変わらずプレイヤーとしての判断を続けているようであれば、部門長などから適切なフィードバックをして、マネージャーとしての判断ができるように教育を進めることが必要となります。
一方、該当社員に対するフォローやケアについても気を配る必要があります。
先に解説したように、プレイングマネージャーは、プレイヤーとしての勤務をしていたときとは、比べ物にならないほど業務の種類が多岐にわたり、精神的・肉体的な疲労が蓄積することが想定されます。
このようなことから、プレイングマネージャーとして管理職の経験を積ませている社員に対しては、部門長が積極的に声がけや面談を行い、適切なフォローや精神的ケアを行うことが重要であるといえるでしょう。
まとめ
プレイングマネージャーという立場は、元々プレイヤーとマネージャーという別個の役割であったものを、人員削減や人件費圧縮をしつつ業務を遂行しようとする、いわば「苦肉の策」として生み出された概念であるといえます。
このプレイングマネージャーという概念そのものが、悪であるわけではなく、適切なケアやフォローのもとで、プレイングマネージャーをさせることで、これまでプレイヤーとしてしか勤務してこなかった社員の成長のきっかけとなる可能性も秘めています。
管理職候補と考えている従業員がいる場合には、適切な面談や聞き取り、声がけなどのスキームを作ったうえで、プレイングマネージャーを経験させるのも良い選択となります。