企業の第一義的な存在意義とは、利益を上げることです。
企業は、営業行為によって収益を生み出し、その収益によってさらなるビジネスの拡大を目指します。
従来、企業が着目するべきは、究極的にはそれのみであるという考え方もありました。
しかし、現代の社会における企業は、利益を上げ続ければよいというほど単純なものではありません。
その企業が、自分たちを取り巻く社会とどのように関わっていくのか、さらに言えば、世界や地球といった非常に大きな視点で自社との関わりを考えていく必要があります。
このような現代的な企業の経営手法において、「パーパス経営」という言葉があります。
この記事では、パーパス経営とは何か、今なぜパーパス経営が求められているのかについて解説します。
パーパス経営とは
「パーパス経営」とは、自社の存在意義を明確にし、企業の経営理念としてどのように用い、貢献していくのかということを示す「パーパス」を掲げて行う経営のことを言います。
「パーパス経営」という言葉に含まれている英単語の「purpose」は「目的」や「意図」と直訳されます。
この意味から派生して、「purpose」には「存在意義」などの意味付けを行う向きもあります。
この「存在意義」とはつまり、社会的な存在意義のことを指し、具体的には、自分たちの企業が存在する社会的な意義とはどのようなものであるのかを明確化して経営を行うことです。
この用語と類似する概念はすでに以前から指摘されており、いわゆる「CSR(Corporate Social Responsibility)」と呼ばれる「企業の社会的責任」を論じる場面で、使用されてきた考え方に似ているといえます。
この考え方のもとでは、企業とは単に利潤を追求するためだけの存在ではなく、利害関係者・消費者・投資家に加えて社会全体に対して適切な意思決定をする責任がある「企業市民」であるという考え方が、根底にあります。
パーパス経営においては、自社がなぜ営業活動を続けるのか、自社が企業として存続することによって、社会に何を還元することができるのかという点に、着目して経営を行います。
パーパス経営のメリット
パーパス経営は、各企業が社会に対して責任を持ち、存在することで企業からの社会に対する還元を受けられるという直接的なメリットももちろんですが、消費者や投資家といったステークホルダーからの共感を得られやすいというメリットがあります。
株主・投資家からの投資を受ける株式会社などの形態の企業においては、とりわけこの点が意識されやすいといえるでしょう。
企業のパーパスに共感をして株式投資をするという考え方は非常に現代的で、「利益を上げる」という企業活動から見ると、一見非効率に思える社会貢献活動や環境に対する取り組みもパーパス経営を採用することで、パーパスへの共感を得られることが可能になります。
加えて、投資家・株主からの支持を受けられる可能性があることを示します。
自社の従業員に対しても、パーパス経営のメリットがあります。
現代の企業における従業員は、報酬や待遇、企業のネームバリューなどのほかにも、自分が勤務している企業の経営方針や社会貢献活動についても重視している場合があります。
こうしたタイプの従業員については、パーパス経営の方針を明らかにし、推し進めていくことで、自社に対する帰属意識や忠誠心、いわゆる「エンゲージメント」の向上にもつながります。
パーパス経営とSDGs
本来、企業の存在意義という意味のパーパス経営と、持続可能性と多様性を示す意味のSDGsとは、微妙に異なる概念です。
しかしながら、ビジネスとしての直接的な収益性ではなく、環境負荷や多様性の容認、社会に対する企業の貢献といった意味合いのあるSDGsは、パーパス経営と非常に親和性の高いキーワードであるといえます。
パーパス経営の方針を新たに推し進めていくうえで、SDGsへの認識や方針を示していくことは、パーパス経営のみならず、企業のSDGsへの取り組みに対する共感を集める効果も期待できます。
これから、パーパス経営を推し進めていこうとする段階の企業にとっては、この両者を並行して検討するメリットも大きいといえるでしょう。
パーパス経営を自社に取り入れるための順序
では、実際に自社の経営に対してパーパス経営を取り入れるには、どのような手順で進行していくのが適切なのでしょうか。
以下に、パーパス経営を取り入れるための手順の一例を解説します。
「パーパス」が何であるのかを明確に定義する
まず、パーパス経営を行うための「パーパス」は何であるのかということを明確に定義する必要があります。
いわゆる「一般受け」「大衆受け」を狙って、玉虫色のパーパスを定めることには、何の意味もありません。
自社の強みや弱み、外的要因、そして社会情勢や、顧客・ブランド、CSRに対する評価などを分析しつつ、どのようなパーパスにするかを定め、言語化していきます。
社内外に浸透させる
自社が持つべきパーパスを言語化することに成功したら、今度はそれを社内外へ浸透させます。
社内への浸透では、従業員への説明や意見募集、面談などを経て地道に社内に定着させていく方法が、もっとも適切です。
特に、従業員への直接的な管理・指導を行う立場にある管理職への浸透は、パーパスの意図が正確に伝わるように留意する必要があります。
そして、外部へのパーパスの浸透には、まず一般向け・消費者向けにはPRが必要となります。
自社のウェブサイトへの掲載やプレスリリースなどの発行はもちろんのこと、大々的にコマーシャルなどを用いてパーパスの浸透をはかる場合もあります。
特徴的なキャッチコピーや、印象に残りやすいPR手法を用いることで、消費者や顧客に対するパーパス経営を強く印象付けることができます。
パーパス経営の注意点
パーパス経営は、この記事で解説してきたように、企業に対する外部・内部からの評価が高まり、様々な効果を生みます。
しかしながら、そのメリットを欲しがるあまり「とにかく早くパーパスを定めて公表する」という思想になるのは、危険です。
自社に、到底実現不可能でストーリーもないと思われてしまうようなパーパスを公表したり、ただパーパス経営を公表するだけで、一向に実現しないような状況を「パーパス・ウォッシュ」と呼びます。
このような「パーパス・ウォッシュ」になってしまうと、せっかく定めた精度の高いパーパスも、上滑りのものとなります。
そして、従業員ばかりでなく、外部のステークホルダーからも「この会社は、ただお題目としてパーパスを発表しているだけであり、本当に実現するつもりはないのだ」と判断されてしまいます。
このような状況に陥らないよう、パーパスは慎重に定め、かつその実現に向けて最大限邁進していく姿勢が、パーパス経営には欠かせないのです。
まとめ
企業は、社会との関わりを無視して営業活動を行うことはできない時代です。
現代の企業は、その存在意義を社会に求め、自社がいかに社会や環境と関わっていくのかについて「パーパス経営」という形で世の中に示しています。
パーパス経営には、様々なメリットがありますが、その根底にあるべきなのは、メリットではなく、企業としての理念・ポリシーの部分です。
利益を求めるためのパーパスは、やがてお題目化していき、実現が遠のいていくことでしょう。
メリットによってではなく、真に社会との関わりを検討した結果のパーパスを、いまの社会は求めているのです。