「ベア」という言葉をご存知ですか?
「ベア」は定期昇給とは違い、基本給与の水準をアップすることです。
ベアは従業員の評価基準に活用することもできるメリットがありますが、企業の負担が多くなるというデメリットもあります。
ベアを法的に必ず行う義務はありませんが、企業経営を長く続けていくなら、人事評価や経営戦略の一つとして理解しておいた方が良いでしょう。
この記事では、
- ベアとは
- ベアと定期昇給の違い
- 春闘とは
- ベアのメリット・デメリット
- ベアと法的義務
について詳しく解説していきます。
ベアとは
ベアとは「ベースアップ」の略で、基本給の水準を上げることを指します。
年齢や勤続年数とは関係なく、会社の業績や景気などによって全労働者の給与水準を上げるのがベアです。
高度経済成長期やバブル経済期には毎年2〜5%のベアが行われてきました。
ベアにより、物価の上昇から労働者の生活が守られてきたのです。
例えば、基本給が30歳で30万円だった場合、2%のベアを行うと基本給は30歳で30万6,000円となります。
ベアを行うと人件費が上がり、引き下げることが難しくなるため、2000年以降に景気が低迷してからは、ベアを拒否する企業も増えるようになりました。
しかしながら、2014年以降は業績が回復し始めた大企業の間でベアを実施する企業が増えたとされています。
一方中小企業では、まだベアを実施していない企業も多く、賃金格差が広がる理由のひとつとされています。
ベアと定期昇給の違い
日本で一般的に多く採用されているのは、定期昇給です。
ベアは全労働者の給与水準を上げるのに対し、定期昇給は労働者の年齢や勤続年数に応じて昇給する給与のことをいいます。
会社によって定義は変わりますが、労働者の年齢や勤続年数のほかに、個人の成績によって昇給が行われることもあります。
定期昇給は年に1〜2回、会社の決めたタイミングで行われることが多いです。
具体的には、基本給が30歳で30万円、定期昇給により31歳で31万円だったとします。
ここに、2%のベアを組み合わせることで、基本給は30歳で30万6,000円、31歳で31万6,200円となります。
定期昇給の場合、企業の人件費負担は大きく変わりませんが、ベアは人件費負担が大きくなるとされています。
定期昇給は、昇給が行われる可能性があることを指しており、必ずしも昇給が行われるということではありません。
春闘とは
春闘とは「春季生活闘争」の略で、毎年2月頃に新年度の4月に向けて、労働組合と企業がベアや労働時間などの労働環境について折衝する場のことです。
春闘は、基本的に労働者の労働条件を改善する場として考えられており、50年以上前から行われてきたとされています。
例を挙げると、2017年1月には2017年の春闘で、トヨタ自動車労働組合で月額3,000円の賃上げを求める案をまとめたと報じられています。
もちろん、公務員にも春闘はあります。
ベアのメリット
ベアのメリットは、
- 評価指標を示す
- 名目賃金を調整する
という2点が挙げられます。
評価指標を示す
企業の収益や生産力が増加した場合、ベアを労働者への評価指標としてみなすことができます。
基本給が上がれば、労働者のモチベーションが上がります。
労働者のモチベーションが上がることで、企業は更に収益や生産力の増加を見込むことが、できるようになります。
逆に、企業の収益や生産力が低迷したとき、もしくは変わらないときにはベアを行わないことが正当化されます。
生産力が上がると、人件費を削減することに繋がります。
削減された人件費や増加した収益をベアに当てることができれば、企業と労働者双方にメリットがあります。
名目賃金を調整する
ベアによって、企業は賃金の目減りを調整し、労働者に安心感を与えることができます。
しかしながら、ベアによって名目賃金の調整を行うことができますが、2000年以降のデフレ下では、ベアを見送る企業が増えています。
その理由として、ベアを行うと、基本給を簡単に下げることができないという問題を抱えていることが挙げられます。
ベアのデメリット
ベアにはメリットだけでなく、デメリットもあります。
ベアのデメリットは、
- 企業の負担が大きくなる
- 成果を上げている社員から不満が出る
という2点が挙げられます。
企業の負担が大きくなる
ベアを一度実施すると、全労働者の基本給の水準が高いまま維持されます。
業績悪化や低迷によって会社の収益が低くなった場合、会社の負担が大きくなることが、デメリットのひとつとして挙げられます。
定期昇給であれば、労働者の数や勤続年数から企業の負担が想定できますが、ベアは労働者との交渉によって変わります。
したがって、想定外の負担が増える可能性もあるのです。
成果を上げている社員から不満が出る
ベアは企業に所属している労働者の基本給を一律で引き上げます。
そのため、成果を上げている労働者からは不満が出る可能性があります。
ベアと法的義務
ベアは、法的に行わなければならないという義務はありません。
したがって、就業規則に「ベアは行わない」という規則を作っても、問題はありません。
ですが、就業規則には「賃金の昇給に関する事項」を必ず記載する義務があるため、定期昇給の有無や時期については、明記する必要があります。
このとき「やむを得ない場合は昇給しない」という文言を定めることは、可能なので昇給しなくても違法とはなりません。
ベアと最低賃金
最低賃金は、使用者が労働者に支払わなくてはならない最低限の賃金額を定めた制度のことです。
最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2つがあります。
地域別最低賃金は都道府県ごとに定められており、産業や職種に関わりなくすべての使用者と労働者に適用されます。
特定最低賃金は、2021年3月時点で227件の産業に定められた最低賃金です。
最低賃金は、法律により定められており、毎年見直されているので、ベアによって最低賃金を下回らないようにする必要があります。
まとめ
ベアは「ベースアップ」の略で、基本給の水準を上げることを意味しています。
年齢や勤続年数によって給与の変わる定期昇給に対し、会社の業績や景気によって全労働者の給与水準を上げることをベアといいます。
労働組合と企業の間で行われる春闘によって、ベアや労働時間などの労働環境を調整します。
ベアには、評価指標を示す、名目賃金を調整するというメリットがある一方で、企業の負担が大きくなる、成果を上げている社員から不満が出るといったデメリットもあります。
ベア自体に、法的義務はありませんが、給与が最低賃金を下回らないように、ベアによって調整する必要はあります。
春闘を行うことで、想定外の負担が大きくなることもありますが、労働者のモチベーションと生産性を上げることもあるのがベアです。
ベアを上手く活用して企業や労働者の成長を促進していってはいかがでしょうか。