現代では、企業が様々な「多様性」を認識し、受け入れることで全ての人が一緒に社会を作っていこうという「ダイバーシティ」という考え方があります。
ダイバーシティという言葉を使う際には、多くの場合人種や思想、学歴などといった、いわゆる「差別」を無くそうという文脈で、使われることが多いのが実態です。
しかしながら、古くからその存在を認識されていたにも関わらず、現代においてもその問題が残る「女性差別」についても、このダイバーシティと深い関係がある概念です。
この記事では、女性が社会へ進出し活躍する考え方の第一歩となる「ウーマノミクス」という言葉について解説します。
ウーマノミクスとは
ウーマノミクスとは、「女性を市場経済に参加させる」という新しい経済モデルのことを言います。
社会進出や労働というのは、男性が担うものという認識をほとんどの人が持っており、女性は家庭にいて、家族のための家事や育児に邁進することが美徳とされました。
これは日本だけでなく、海外においても程度の差こそあれ同様の認識が、歴史的に存在していたことは確かです。
女性が働くのは、あくまで一時的なものであり、やがて男性と結婚をして家庭を築くまでの「腰掛け」であるという認識が、男性側だけでなく、当事者である女性自身にもあったのです。
しかしながら、女性自身が人生におけるキャリアプランを考え、最終的に「家庭に入る」という選択だけではなく、自分自身の仕事と人生をデザインしていくことこそが重要であるという考え方があります。
この考えをもとに、女性は「労働者」「社会」の一員であるという考え方が、次第に支持されるようになってきました。
この考え方の根本には、社会で生活する人々は「労働者」であり、かつ「消費者」でもあるという考え方があります。
労働によって金銭を得て、その金銭を市場で消費するという経済活動が活性化することは、日本の国自体の経済活動にとって好影響を与えます。
ウーマノミクスの具体論
一言で、女性を市場経済に参加させるといっても、従来の女性の経済活動においても、女性は、市場経済に参加してこなかったわけではありません。
消費者としてお店で買い物をしたり、結婚するまでの間、一般企業などで勤務していた女性も決して少なくはなかったのです。
しかしながら、女性であるからという理由で、自身のキャリアを諦めて結婚をしなければならない、結婚・出産を機に会社を辞め、家庭に入らなければならないという風潮は確かにありました。
あくまで、女性による経済活動は「一時的」「限定的」なものであると解釈されてきました。
「ウーマノミクス」という用語が初めて使われた1999年前後に提唱された考え方は、このような考え方とは異なります。
「職場にいる女性と男性を同じ数にする」などの具体的な戦略をもとに、「女性は人口の約半分を占める労働力」であると位置づけ、女性による経済の牽引を目指しました。
1999年前後にこの用語が登場した際には、「女性活躍」が一大ムーブメントとなりましたが、その後2013年ごろから、ときの安倍政権が女性活躍を推進する方針を打ち出したことで、再度「ウーマノミクス」への注目が高まりました。
どのようにウーマノミクスに取り組むのか
「女性活躍」と一言に言っても、「ウーマノミクス」という用語が登場した時代と現代とでは世相が異なります。
かつては、そもそも女性労働者自体が少なかったこともあるために「職場にいる女性と男性の数を同じにする」と、「人数」に着目した施策が取られましたが、現代では働く女性は、決して珍しいものではありません。
そこで注目されるべきは、「女性がどのように働いているのか」という点です。
単に、労働者として働くだけではなく、女性自身にその意思があれば、男性と同様に責任者・管理者へのステップアップ・キャリアアップが可能であり、また起業や専門職への転職といったキャリア支援も行われるようになってきています。
地方自治体では、「ウーマノミクス」という用語を女性活躍推進のために活用しており、ウーマノミクス・女性活躍に関する情報発信・啓発活動を積極的に行っています。
愛知県や山形県では、それぞれ「あいち・ウーマノミクス推進事業」「やまがたウーマノミクス」と称して、男女共同参画事業、女性雇用推進事業などを実施しています。
加えて、経済産業省においても、女性起業家支援・サポート事業などが行われているほか、女子大学においても、起業家支援・サポートなどの施策が行われてきています。
日本における「ウーマノミクス」の課題
上記のように、様々な機関・起業において女性活躍のための推進事業が行われてきているにも関わらず、日本は女性が活躍しにくい社会であると評価されることがあります。
このような評価のもととなっているのは、「ジェンダー・ギャップ指数」と呼ばれる指標です。
この指標は、経済・教育・政治参加などにおける男女間の不均衡を示す指標であり、各国ごとにスコアが付けられます。
この指数の中で、計算される内容としては、労働者の単純な男女比や数だけではなく、高等教育の就学率といった「教育」分野、国会議員・閣僚の男女比、国家元首の在任年数の男女比といった「政治的エンパワメント」などが評価対象となります。
もちろん、労働環境における賃金格差や専門・技術職の男女比なども計算対象となります。
つまり、「職場の労働者の男女比」を高めるだけでは、ウーマノミクスとは呼べず、実際に、女性が社会生活の中でキャリアを自分の意思で決定できることが、労働におけるウーマノミクスにおいて重要であると言えます。
しかしながら、それが日本においては、未だ実現されていないということになります。
加えて、政治参加や政治的影響力において、日本の女性はいまだ先進国の中で非常に低い水準にあり、事実、2020年のジェンダー・ギャップ指数においては、日本は153か国中121位という順位でした。
企業が「ウーマノミクス」を実現するには
企業においてウーマノミクスを実現するためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。
職場における男女比や、女性社員の数だけが増えればよいわけではないということは、先に解説したとおりです。
ウーマノミクス・女性活躍が実現されるためには、社内の制度として女性が男性と比べて活躍しづらいという環境を改善していくことが、大前提となります。
女性を優遇するのではなく、女性であるという理由をもって、社内での責任ある立場が任されなかったり、決定権が与えられなかったりといった差別的な取り扱いが許されないことはもちろんです。
そのうえで、女性自身が自分のキャリアプランをオープンに相談できる場が用意されていたり、女性が活用しやすい社内制度・社内規約の整備が行われていることも重要でしょう。
そして、これらの制度が「整備されている」という段階にとどまらず、「実際に活用されている」という段階までサポートされなければなりません。
制度が建前化・形骸化しているような状態では、女性が活躍できているとは到底言い難いでしょう。
自社の女性従業員との面談や聞き取り調査などをこまめに行い、女性が抱えている自社制度への不満や制度不備をいち早く発見し、それを改善していくという不断の努力によって、ウーマノミクスは最大の効果が発揮されるのです。
まとめ
昭和から平成、令和と、日本の労働環境において女性の労働者を見かけることは確かに増えてきたでしょう。
つまりそれは、「数」や「男女比」においては、女性の雇用は改善されてきていると評価することができます。
しかしながら、それは女性活躍の第一歩にも到達していない、極めて当然の前提です。
ウーマノミクスの実現、そして女性の社会進出・活躍を実現するためには、これに加えてさらなる努力が必要であり、それこそが、結果的に日本全体・世界全体への経済的な影響を与えることを認識しなければならない段階に、到達しているのです。