元来、「仕事は仕事」というように、仕事というのは「大変なもの」「つらいもの」というような印象が労働者にはありました。
そして、つらい仕事、大変な仕事を頑張ったかわりに、休日は仕事のことを考えずにただ遊びを満喫する、というような過ごし方が社会人の常識というような扱いが一般的でした。
しかし、時代が進みいろいろな働き方を選ぶ人が出てきた現代では、必ずしもこのような従来の考え方にとらわれない仕事への向き合い方というものも登場しつつあります。
この記事では、「仕事と遊び」という、社会人が日常的に向き合う両者に関する概念、「プレイフルネス」について解説します。
「プレイフルネス」とはどのような概念か
「プレイフルネス」とは、一言で言えば「遊び心」のことを指します。
これまでの社会人にとっての「仕事」というものに遊びの要素や遊び心といったものは持ち込まず、真剣に、まじめに、正確に仕事を行うという姿勢が支持されてきました。
しかし、現代のビジネスシーンではむしろ、仕事のなかに積極的に「遊び心」を取り入れることをよしとする文化が広がりつつあります。
そして、遊び心を取り入れた商品やサービスが市場で公開されたときに、消費者や顧客がその「遊び心」に共感して商品やサービス、その提供を行っている企業のファンになるというように、プラスの効果をもたらしているという実例が出てきているのです。
しかし、仕事をまじめに行う、真剣に行うというかつての一般論も間違いとまでは言い切れないはずです。
このような「プレイフルネス」、つまり遊び心を仕事に取り入れようという論が形成されるようになったのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
「プレイフルネス」と「イノベーション」の違い
現代のビジネスシーンにおいて、「イノベーション」という言葉が多用されるようになっています。
これは旧態依然としたサービスや商品の提供、つまり「仕事」と対比して、革新的な案やチャレンジャブルな案のことを指しています。
イノベーションというのはおもに技術分野で使用される技術革新などがイメージしやすいかと思います。
ですが、これは必ずしもテック系のみに関係する言葉ではありません。
業界内での古い慣習や常識にとらわれない、新しい要素や考え方を取り入れた仕事のやり方をさして「イノベーティブ」と称することもあります。
しかしこれには、旧来の考え方をわきにおいて、まったく新しい角度や視点での議論が必要です。
このようなとき、従来どおりの価値観や従来どおりの仕事の慣習にとらわれていては、とても革新的な案など出せるはずがありません。
そこで、従来の「仕事はまじめに」「仕事は真剣に」という価値観から離れ、まったく新しい案を生み出すためにも、仕事の中に遊び心を取り入れる「プレイフルネス」という概念が取り入れられてきているのです。
プレイフルネスにはストレス軽減効果や生産性の向上も
イノベーティブな発想や取り組みが必要となる企業・業種にとって、プレイフルネスが重要であることはこれまでの項目で解説してきました。
しかし、それでも「自分の会社にはプレイフルネスはどのように活きるのかイメージできない」「自分の業種はプレイフルネスやイノベーションとは関係がない」と感じる方も多いでしょう。
しかし、イノベーションと直結しない場面においても、現代のビジネスマンにとってプレイフルネスは好影響を与える概念であるという指摘があります。
プレイフルネスとストレスとの関係について、2020年に行われた研究では、プレイフルネスの向上はストレスの軽減効果、ストレスへのレジリエンス(適応力・回復力)を高めるという研究結果が得られたとされています。
たとえ業務内容がイノベーティブな発想を必要とするような業種でなかったとしても、ストレス軽減効果やレジリエンスの獲得は、企業の従業員がよい仕事をするうえで重要な要素であることは間違いありません。
また、プレイフルネスの向上によって仕事のアウトカム(成果創出力)が高められる可能性があるということも研究の中で指摘されています。
これらの研究と結果は、現代のビジネスシーンで仕事を行うビジネスマンにおいて、プレイフルネスは意識していくべき必要のある概念であることを示しています。
プレイフルネスにおける先行者とは
プレイフルネスを向上させることによって、様々な好影響が期待されることはご理解いただけたでしょうか?
しかし、企業においても従業員のプレイフルネスの向上をはかりたいと考えたとしても、それは容易なことではないでしょう。
それは、日本企業の多くが直面する「イノベーションが発生しない」という、より身近な課題の解決に他ならないからです。
このような課題に対して、やはりプレイフルネスを実践している先行者から、仕事におけるプレイフルネスの向上方法を取り入れるという選択が有効です。
日本におけるプレイフルネスの先行者
海外においては、日本よりもイノベーションが起こりやすいことから、プレイフルネスの先行者が多いのではないかという指摘もありますが、いきなり海外からプレイフルネスを学ぶのは難しい場面もあるでしょう。
日本においても、プレイフルネスに近い概念で仕事を行ってきている存在がいます。
日本においてプレイフルネスと近い概念の仕事というと以下の例があります。
日本におけるプレイフルネスと近い概念の仕事
- フリーランス
- YouTuber
- インフルエンサー
オリジナルの流儀で仕事を進めようとするフリーランスなどは良い例であるといえます。
生活の中の時間において、仕事と遊びの時間区分がサラリーマンほど厳密でなく、遊び心を仕事に反映させやすいという環境が、フリーランスをよりプレイフルネスに近い存在にしています。
また、近年ではYoutuber・インフルエンサーと呼ばれる人々が、かつてのような「どちらかといえば趣味寄り」の存在ではなく、「趣味と仕事を兼ねる」存在となりつつあります。
彼らもまたフリーランスと同様、自分自身の関心のあることを仕事にし、かつルーティンワークではなくクリエイティブな発想が必要になるという意味で、プレイフルネスを実践している存在であるといえるでしょう。
さらに、彼らは人の心を動かし、興味や関心を向けさせることによって収益を成り立たせているという側面もあります。
その意味で、「遊び心」を仕事に取り入れるという意味では、一般のサラリーマンよりも一枚上手である可能性が高いといえます。
プレイフルネスとトラブルへの向き合い方
仕事を進めていくうえで、トラブルに見舞われることもあります。
どれだけ正確な作業を心がけていたり、トラブル防止策を講じていても、トラブルは仕事のうえでつきものです。
そのようなとき、トラブルを「嫌なもの」「辛く苦しいもの」という捉え方をしてしまうのが人情ですが、ここにも遊び心、つまりプレイフルネスの入り込む余地があります。
プレイフルネスは遊び心によって仕事にイノベーションや発展をもたらすものですが、解決するべきトラブルに対しても、遊び心が活躍します。
深刻なトラブルや、一見解決が難しいトラブルに直面したときほど、ユーモアが重要な役割を果たすということは旧来から指摘されてきたことです。
遊び心とユーモアは近い概念にあり、ユーモアを生み出すことでトラブルに対する柔軟な解決方法を見出すことができるケースもあります。
このようなことから、プレイフルネスはトラブルに対して有効な対応策となりうるものであることがわかるのです。
おわりに
時代が変わり、仕事のやり方や仕事への向き合い方も変化しつつあります。
今の時代は、「苦しいことでも頑張っていれば成果が出る」というような理論は、若い世代にはなかなか伝わりづらいかもしれません。
加えて、現代の仕事は様々な要因が重なり複雑さを増しています。
従来どおりのやり方でがむしゃらに頑張る、というやり方が、通用しにくくなっているということも確かなのです。
このような時代において仕事を継続し、アウトプットの質を確保しながら成果を出し続けるためには、遊び心、つまりプレイフルネスの概念が欠かせません。
プレイフルネスを高めることで仕事の質だけではなく、従業員のストレス耐性が高まる可能性も指摘されていることから、プレイフルネスを向上させていくメリットは非常に多いといえるのです。