企業における「企業理念」や、製品・サービスの「ストーリー」は、企業のホームページなどで公開されていても、関心を持って読む人は少ないというような印象を持つ人も、少なくないのではないでしょうか。
しかしながら、消費者が企業理念や製品・サービスに込められたストーリーに関心を持っていないと断定するのは早計です。
企業の製品づくりへの姿勢や情熱、製品に込められたこだわりに、感動や共感をしたからその製品を購入した、という購買行動は、決して珍しいものではありません。
この記事では、製品に対する消費者の感情の動きによって価値を付与する「感性価値」について解説します。
感性価値とは
感性価値とは、感動や価値といったものを得ることによって、生まれるサービスや製品のことをいい、目に見えない消費者の意識に働きかけることを指す言葉です。
例として、日常的に使用するような道具や日用品を考えてみましょう。
道具や日用品は、生活の中で使用するシーンがあるので、当然、顧客や消費者はその商品を使って何らかの「効果」を得たいと考えています。
これが製品の「機能」です。
機能が充実した製品は、顧客や消費者の満足度を高めることができるので、機能が充実すれば売れる製品が作れると考えがちですが、機能だけが製品の価値ではありません。
ここに、「感性」が影響することがあるのです。
これが「感性価値」です。
「感性」は、顧客や消費者の心の動きに着目したものであり、「感動」と言い換えると理解しやすいでしょう。
感性によってもたらされる価値とは、顧客や消費者に「感動」を与えたことによって価値がつけられるものです。
「感性」と「価値」という言葉を並べると、一見「感動するようなエピソードを付与した商品」であるかのように思えてしまいますが、必ずしも「感性価値」はそれだけではありません。
では、具体的に製品に「感性価値」が付与されるのはどのようなケースなのでしょうか。
顧客の感性価値に訴える製品づくりとは
顧客や消費者が製品やサービスを購入する際には、「この商品・サービスを購入しよう」という意思決定があります。
このときに、感性がどのように影響するかという良い例としてまず挙げられるのが「感動」です。
「感動」による価値とは、その製品のプロモーションやインタビューなどの場面で、顧客・消費者がその製品・サービスを利用することで自分に良い体験がもたらされる、ドキドキ・ワクワクといった感情のゆらぎを生じさせることを指します。
近年では、様々なハイテク製品がありますが、今日、多くの人が利用しているワイヤレスイヤホンなどの製品を例にとってみましょう。
ワイヤレスイヤホンの機能的な本質とは、「コードレスで音声や音楽を転送できる」ことにあります。
顧客や消費者に機能的に訴求する場合には、伝送速度や音のズレのなさ、音質やバッテリーの持ちの良さなどが挙げられるでしょう。
一方、インターネットやSNSでの製品プロモーションで、ランニングやスポーツの最中にワイヤレスイヤホンを利用している場面が映った時、両手がフリーになり、いかにも自由に活動している、というストーリー仕立ての動画広告などを見たことがあるかもしれません。
このような訴求方法は、実際にその製品を使ってみたいという感情の動き、その製品を使うことで自分の生活が変化するというワクワク感が得られるのです。
また、「感動」のほかに「共感」に訴える感性価値もあります。
具体的には、企業の理念や姿勢を全面的に押し出した広報戦略などが挙げられます。
革製品や鉄製品などで、職人が実際に作業場で汗を流して真摯に製品を制作している様子を流す広告などは、感性価値を付与するという意味を持ちます。
「製品づくりに妥協しない」「高品質のものを届けるために最善の努力をしている」というメッセージを発信することにより、その企業からのメッセージに共感した顧客・消費者からの購買行動につなげられる可能性が出てくるのです。
「感性価値」がもたらすメリットとは
感性価値を、広報・プロモーションという側面で見た場合の、感性価値がもたらすメリットは、「顧客や消費者に自社製品の強力なファンを呼び込むことができる」という点にあります。
企業からのメッセージとして、自社のこだわり、情熱を顧客や消費者にダイレクトに訴求し、顧客や消費者はその姿勢やメッセージに共感することに繋がります。
これによって、他社と機能的には同じ製品、場合によっては、他社に比べて機能的に見劣りする製品であっても、自社の製品を購入してくれるファン層を獲得することにつながるのです。
また、感性価値を、マーケティングという側面で見た場合には、製品の性能差と感性価値の有無によって、どれだけ製品の訴求力が異なるのかという判断材料になります。
つまり、顧客が自社製品に求めているのが性能や機能面であるのか、それとも製品のストーリーやこだわりの部分といった感性面であるのかを把握することができます。
このマーケティング行動によって、自社が次に開発する新製品の方向性を決定するうえでの指標として利用することができるほか、既存の自社製品に対してのリブランディングを行うことで、既存製品をより多くの顧客・消費者に届けるための戦略も立てやすくなります。
製品に「感性価値」は必要なのか?
感性価値がどのような影響を与えうるかについては、ここまでの解説で触れてきました。
しかしながら、製品は製品としての形を為しており、必要な機能を満たしていれば成立します。
そのように考えれば、「感性価値」の必要性が見えにくくなる場合もあるでしょう。
現代では消費者がSNSや動画投稿サイトなどを利用しているケースも多く、そこで話題が集中することで、これまでそれほど支持されていなかった製品やサービスが一気に脚光を浴びる可能性があります。
また、このような現象は、マイナス面にも働きます。
これまで堅調な売上を見せていた製品であっても、SNSや動画サイトなどでひとたび否定的な要素が拡散されたことをきっかけに、一気にシェアを失ってしまうという「負の感性価値」がもたらされてしまうケースもあります。
このようなことから考えると、製品やサービスを展開する企業にとって、製品やサービスを成立させるうえで感性価値は、物質的に必須ではないとしても、営業活動を続けていくうえで重視されるべきもの、という位置づけが自然であるといえます。
企業の広報担当者などが、ホームページ上だけでの情報提供だけではなく、製品やサービスへのこだわりをインタビュー記事などで公開したり、SNSなどで一般ユーザーと会話したりしているといった近年の状況は、まさしく多くの企業が感性価値を重視しはじめた論拠といえます。
まとめ
製品やサービスを購入するという行動は、日常的に人々が行う行動です。
しかしながら、この行動は必ずしも、「必要だから行う」という漫然とした消費者の態度によってのみ行われるものではありません。
消費者の側がその製品やサービスに感動して、あるいは共感してお金を払いたいという意思を持ち、製品やサービスの購入に至るということは、実は多くの場面で行われてきたことなのです。
機能性だけに注目すれば、製品の選択肢は非常に多くなりますし、その中で自社の製品が選ばれているのは、「その時点で機能的に優れているから」というシンプルな理由になります。
しかしながら、その製品に感性価値が付与されているということになれば、消費者の購買行動は必ずしも製品の品質や性能だけではなく、「自社のファンだからその製品を選び続けてくれている」という展開にも繋がります。
「ものづくり」や「おもてなし」という言葉が、単に「製造」や「接客」という言葉に置き換えられないのは、「感性価値」を付与することで、単純なサービス、機能面での優劣ではなく、顧客・消費者の感性に訴える営業活動をしているという意味も込められています。
「感性価値」という言葉がビジネスの場面で意識され、重要視されていることには、このような意味があるのです。