THP(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)とは、従業員の健康維持に関する取り組みの指針のことを指します。
そして昨今、働き方改革や労働環境の変化により、このTHPが注目されています。
そこで今回はTHPの意味やメリット、導入方法についてご紹介します。
- THPの意味
- THPに取り組むメリット
- THPの導入方法
- THPの取り組み事例
THP(Total Health promotion Plan)とは
THPとは、Total Health promotion Plan(トータル・ヘルスプロモーション・プラン)の略称で、企業が働く人の心身ともに健康的な毎日を過ごせるよう支援していく取り組みの指針のことをいいます。
このTHPは、1988年の労働安全衛生法改正に伴い、厚生労働省により策定されました。
THPに基づく主な取り組みは以下のとおりです。
- 健康測定の結果から社員に適切なアドバイスを行う。
- 社員に対して『健康測定結果報告書』を配布。
- 働く社員に対して健康指導を行う。
最近では経営の基本計画として、THPを導入する企業も増えてきています。
THPが注目される背景
THP(Total Health promotion Plan)が日本の企業で注目されている背景には以下の理由が挙げられます。
- 健康診断の「有所見率」の上昇
- 不安やストレスを感じる人の増加
- 生活習慣病患者の増加
健康診断の「有所見率」の上昇
定期健康診断の検査項目で「所見」(健康状態の異常)があった従業員を有所見者と言います。
2018年のデータでは、20代の有所見率は19%、60代以上の有所見率は57%と、年齢を重ねるごとに有所見率が増加していることがわかります。
労働者の高齢化により有所見率が上昇し、健康に不安を抱える人が増えたことで、THPが注目されるようになりました。
不安やストレスを感じる人の増加
2021年の労働安全衛生調査では53.3%の人が、「現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答しました。
ストレスがかかる大きな要因としては、個人の業績に対するプレッシャーや、雇用の多様化、労働環境や人間関係などが考えられます。
生活習慣病患者の増加
運動不足や栄養バランスが偏った食事、不規則な生活は、生活習慣病を引き起こす可能性があります。
生活習慣病に罹患することで癌や脳卒中、糖尿病など、健康を損なう恐れがあり、日常での健康的な生活が予防につながるとされています。
2019年に厚生労働省によって行われた「国民生活基礎調査」では、人口1,000人に対して404人が生活習慣病の通院患者であるという調査結果となりました。
傷病別の調査でも、生活習慣病が上位を占め、今や生活習慣病は個人的な問題ではなく、社会全体で予防する取り組みが必要になってきたと言えるでしょう。
THPの目的
THPは、従業員全員が心身を健康に保つことを目的として行います。
従業員一人ひとりの生活習慣の改善や健康管理と指導、ストレスケアなどを持続的に行うために導入する企業も多くあります。
また、こうした健康への配慮は働きやすい職場環境の構築という形でCSR推進につながり、従業員はワークライフバランスの充実が実現できます。
それでは具体的にどのようなメリットがあるのか見ていきましょう。
THPに取り組むメリット
THPに取り組むことで得られるメリットは以下のとおりです。
- 仕事パフォーマンスの向上
- 医療費軽減
- 企業のイメージアップ促進
- ストレスの軽減、離職率低下
- 社会の活性化に貢献
仕事パフォーマンスの向上
THPに取り組むことにより、職場の活性化と生産性向上が期待できます。
例えば定期的な健康診断を実施し、必要に応じて健康指導を行うことで社員の健康状態を改善することで、業務のパフォーマンスを発揮しやすい労働環境を構築する事が可能です。
従業員にとって仕事のしやすい労働環境を構築することは、病欠を減らし業務の効率化につながります。
つまり、THPの取り組みは結果的に従業員一人ひとりの生産性を高めることができる施策と言えるでしょう。
医療費軽減
THPに取り組むことにより、従業員の医療費を軽減させる事ができます。
そして、従業員が医療機関で受診する頻度が減れば、企業が負担する医療費を削減することも可能です。
また、協会けんぽや健康保険組合で実施している「インセンティブ制度」の恩恵も受けることができるため、企業にとっても、従業員にとっても効果の高い取り組みと言えます。
企業のイメージアップ促進
THPに取り組むことは従業員だけでなく企業にとっても得られる効果は大きく、特に企業のイメージアップに効果的です。
ただ利益のみを追求するのではなく、労働環境の整備や社員の健康に注目した取り組みは、就職活動中の学生や転職を考えている求職者からの印象が良くなり、人材確保にもつなげる事ができます。
ストレスの軽減、離職率低下
健康な従業員が増えることで職場の雰囲気が明るくなり、従業員同士のコミュニケーションや人間関係も良好になります。
また、「病気やストレスによる入院や通院が続き退職する」といった退職者を減らすこともできます。
社会の活性化に貢献
従業員が心身ともに健康を保つことで、ワークライフバランスが整い、地域活動への参加につながります。
地域活動への参加を通じて、自己実現の機会や地域の交流が生まれ、社会の活性化が期待できます。
健康経営との違い
THP(Total Health promotion Plan)と近しい言葉に「健康経営」という事があります。
それぞれを比較してみましょう。
THP
自社で働く従業員の健康状態を良好にしQOL(※1)を向上させる取り組みのことを指します。
※1:QOLとはQuality of Life(クオリティ・オブ・ライフ) の略称で「生活や人生の質」を指す言葉として扱われています。
THPはあくまで従業員のライフスタイルや豊かな人生を歩んでもらうための取り組みです。
健康経営
企業が成長し収益性を高めていくために従業員の健康状態を良好にする取り組みのことを指します。
健康経営は企業視点で、将来的に収益性を高める投資の考えの下、従業員の健康管理を経営視点で考え、戦略的に実施していく取り組みです。
THP
- 従業員の健康状態を良好にする取り組み
- QOLを向上させることが目的
健康経営
- 従業員の健康状態を良好にする取り組み
- 企業の収益性を高めることが目的
このように大きな違いとしては、THPは従業員個人のための取り組みで、健康経営は企業のための取り組みであるといった点です。
健康経営について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
ウェルビーイングデザインとは?なぜ今必要とされているのか?
THPの実践方法
THP(Total Health promotion Plan)は主に以下のステップで進めます。
- 健康指導
- 運動指導
- メンタルヘルスケア
- 栄養指導
- 保護指導
実践の際には、従業員と産業医、指導スタッフとの共同作業で進めることがポイントです。
それでは具体的な実践方法を解説していきます。
ステップ1 健康指導
THPの第一段階は「健康指導」です。
「健康測定専門研修」を修了した産業医による健康測定を行います。
健康測定の項目は以下のとおりです。
- 問診
- 生活状況調査
- 診察および医学的検査
これらを測定し結果を産業医が評価を行い、最終的に各種指導票を作成します。
ステップ2 運動指導
運動指導は、「ヘルスケア・トレーナー」と呼ばれる運動指導担当者が、従業員に合わせて作成したプログラムをもとに、行われます。
従業員の年齢や性別、体力に違いがあることから「個別指導」がメインですが、肥満や禁煙、禁酒など同じ症状を持つ人との「団体指導」を組み合わせるケースも見られます。
ステップ3 メンタルヘルスケア
健康測定の結果、産業医の判断で、「心理相談員」によるメンタルヘルスケアが提供される場合があります。
従業員が希望した場合も、ケアを受診することが可能です。
ストレスに対するセルフケアや、リラクゼーション療法による指導が行われることが特徴です。
ステップ4 栄養指導
健康測定の結果、食生活に問題があると産業医が判断した場合は、「産業栄養指導担当者」による栄養指導が行われます。
血液検査の結果などから、栄養バランスの偏りが発覚するケースが多いようです。
主な原因は以下のとおりです。
- 朝食抜きや間食といった食事の習慣
- 偏食
- 行き過ぎたダイエット
上記の食生活を改善するためのプログラムが組まれます。
ステップ5 保健指導
仕事の疲労を回復するための適切な睡眠時間の確保や歯周病予防など、従業員に健康的な生活を推進する指導です。
健康診断の結果や産業医の指導表から、睡眠、喫煙、飲酒、口内環境などに関する教育を行いましょう。
THPに取り組むポイント
厚生労働省は、THPに取り組む際のポイントを示しています。
その中でも、THPの策定と実施について推奨されている2つのポイントをご紹介します。
THPの策定
事業者はTHPの実施により従業員の健康サポートに取り組むことを表明し、具体的な取り組み内容を計画しましょう。
職場環境に合わせた内容であるか、実現可能な目標であるかを検討することが求められます。
計画内には、PDCAによる推進や、労使双方が一体となって取り組む姿勢に関する情報を盛り込むことがポイントです。
THPの推進体制の形成
THPを実施する際、現場からスタッフの選任や委員会の設置を行います。
ここで選任されたスタッフは、THP推進に協力する従業員をそれぞれ、産業医、運動指導担当者、運動実践担当者、心理相談担当者、産業栄養指導担当者、産業保健指導担当者として養成することが望まれます。
すべての担当者を確保することが難しい場合、外部の指導機関に委託することがおすすめです。
THP導入企業の取り組み事例
THPを導入することで職場環境の改善や医療費の削減などのメリットが得られることから、多くの企業がTHPを採用しています。
ここでは、THPに積極的に取り組んでいる企業の事例をご紹介します。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社では、「健康チャレンジ8」を実施しています。
この取り組みは、8つの健康習慣(適正体重、朝食、間食、飲酒、運動、禁煙、睡眠、ストレス)の改善に参加し、健康を保持増進するものとなっています。
「健康チャレンジ8」の各従業員の取り組みの結果を踏まえ、産業保健スタッフが「健康出前講話」を行います。
また、会社独自で健康スマホアプリを開発し、キャンペーンに応じて健康保険組合の事業に使用できるポイントの付与を行うなど、積極的にTHPを取り入れている企業です。
花王株式会社
化学メーカーの花王は、社員の健康運動を見える化するためにデータ管理システムを導入し、ポイント制度が取り入れられています。
貯めたポイントは日常生活に役立つものと交換可能です。
ほかにもウォーキングキャンペーンなど従業員の健康を促進する取り組みを積極的に行っています。
ティーペック株式会社
THPの取り組みの一環として、喫煙対策を実施しています。
禁煙に成功した従業員に対して「健康促進祝金」1万円を支給し、非喫煙者に対して「健康促進手当」月額3000円を支給しています。
この施策により、2015年には喫煙者ゼロを実現させました。
まとめ
企業が成長し収益性を高めていくためには、従業員一人ひとりの健康管理にも目を向けていく事が重要です。
THPの取り組みによって、従業員の生活習慣の改善や生産性の向上などにつながります。
また企業側にとっても、従業員の健康増進を図れるだけでなく、企業のブランディングや社会的な評価向上も期待できるでしょう。
THPの取り組みの効果を高めるためには、専門知識を持つ産業医との連携や関連機関の活用が大切です。
ぜひ、本記事を参考にTHPの導入を検討してみてはいかがでしょうか。