みなさんは「デュアルシステム」をご存知ですか?
「デュアルシステム」とは、国が取り組むキャリア教育のひとつです。
中小企業と高専、そしてハローワークなどの連携で若い世代の職業能力を形成することが目的です。
実際どのような取り組みが行われているかわからない担当者の方も少なくないことでしょう。
今回はデュアルシステムと、その具体例を詳しくご説明していきます。
デュアルシステムとは?
2002年度、国内のフリーターの数が過去最高値を更新したことが話題になりました。
若年層の失業率・離職率も急増し、長く危惧されてきた社会問題である少子高齢化はさらに顕著になり、それによる労働力不足の対策としての若年層のキャリア形成は国としても喫緊の課題でした。
若年層はますます過酷な雇用状況の中、生産性や競争力は低下し、社会基盤の崩壊が危ぶまれ、早急な対策が求められた背景もありました。
文部科学省と厚生労働省は連携してドイツのシステムに倣った「日本版デュアルシステム」の実施を決定しました。
日本版デュアルシステムは、「働きながら学ぶ、学びながら働く制度」で、この制度を用いることによって、若年層を職人に育てることができます。
この制度の中で、訓練生は職業学校での座学、企業での実習を並行して受講します。
注意すべきなのは、かならずしも訓練修了後に雇用される前提ではないことです。
つまり、インターンのようなスタイルで企業での実習を受けても、実習期間を修了したら雇用されるというわけではありません。
これでは、企業が得られる利益は少なく思えるでしょう。
しかし「キャリア形成促進助成金」という助成金があります。
たとえば企業がパートを含めた雇用形態で訓練生を受け入れると、訓練の費用、負担した賃金に対して企業助成金が支給されます。
この助成金には以下のような条件があります。
①職業能力開発推進大学等が主導する場合:訓練生1人あたり月24,000円の支給
②高専等が主導する場合:協力企業に対する謝礼なし
デュアルシステムへの取り組みが求められている企業は日本で90パーセント以上を占める中小企業です。
より身近な存在でもある中小企業という会社組織で、若年層に働く実感を体感してもらおうというものなのです。
デュアルシステムで得られるメリット
デュアルシステムとは?で解説したように、企業が助成金を得られる場合がありますが、その他に企業が得られるメリットはあるのでしょうか。また、学生側にとってのメリットも合わせて解説します。
学生側のメリット
学生がデュアルシステムを活用すると以下のようなメリットが得られます。
- 就職率が向上する見込みがあります。
- 実習を通じて適性を発見できるため、より適した仕事に就ける可能性が高まります。
- 実践力が向上することで、就職において有利になるでしょう。
- 実習先の企業で働くことで収入を得られ、学費の負担が軽減されます。
- 卒業時の成績評価により、企業から適切な評価を受けられる機会があります。
このシステムを学生が活用することで、経済的な理由で進学ができなかった若年層にとっても良い効果をもたらすでしょう。
企業側のメリット
企業がデュアルシステムを活用すると以下のようなメリットが得られます。
- 優秀な若年人材を確保することができます。
- 実習期間中に人材の適性を見極めることで、機会損失を減らすことができます。
- 繁忙期に合わせた要員計画に基づいて実習計画を立てることで、若年人材を実習しながら労働力として活用することができます。
- 卒業時の成績評価により、職業能力が保証された人材を採用できます。
このシステムを企業が活用することで、訓練が終了した優秀な若年層を要員計画に基づいて
確保できる点は大きな利益になるでしょう。
デュアルシステムの訓練コース
デュアルシステムは、対象者や訓練期間などによって3つのコースに分けられています。
①専門課程・普通課程活用型
②短期課程活用型
③委託訓練活用型
コース①:専門課程・普通課程活用型
このコースの概要は以下の通りです。
訓練期間:長期間(9ヶ月以上3年以下)
対象者:高校卒業者
費用:原則有料
実施内容:厚生労働省の指導の下で、職業能力開発総合大学校で実施(2年間の教育訓練の期間のうち企業での実習期間1.5ヶ月経過後、3ヶ月以上企業でOJT研修を開始)
コース②:短期課程活用型
このコースの概要は以下の通りです。
訓練期間:6ヶ月以上1年以下
対象者:フリーター
費用:無料
実施内容:主に、6ヶ月間の教育訓練期間のうち1.5ヶ月程度が企業での実習
コース③:委託訓練活用型
このコースの概要は以下の通りです。
訓練期間:4ヶ月以上6ヶ月以下
対象者:フリーター
費用:無料
実施内容:4ヶ月間の教育訓練の期間のうち1〜3ヶ月が企業での実習
企業でのデュアルシステムがもたらす意味と実施例
では、企業が時間やコストを負担してデュアルシステムに協力するのはなぜでしょうか。
過去のデュアルシステムの実施例から5つご紹介してみましょう。
- 情報システム監査株式会社
- 旧 NTTネオメイト中国
- 青木鐵工所
- モリイ製作所
- 株式会社プロアシスト制御技術部生産システムグループ
各社の実施例から、企業にとってのメリットを理解できるのではないでしょうか。
実施例①:情報システム監査
システム監査とコンサルティング事業を手掛ける「情報システム監査 株式会社」では、雇用・能力開発機構大阪センターから委託を受けた富士通エフ・オー・エムから研修生を受け入れています。
具体的な実施内容は、WordやExcelを使用した基本的なパソコン操作を学んでからシステムの監査に関する職業訓練を体験するというものです。
情報システムが投資に見合っているのか、セキュリティに不備はないかなど人材育成の効果が期待できるプログラムを準備しています。
情報システム監査のような、将来的にデュアルシステムに協力した企業へ就職する可能性を見据えたカリキュラムを実施する企業も少なくありません。
実施例②:旧 NTTネオメイト中国
「NTTネオメイト中国」では、広島工業大学専門学校と一般社会人を受け入れた講座の修了ごとに行う試験の合格者のみOJT研修を受けられます。
具体的な実施内容は、午前中は学校での授業、午後は実務のカリキュラムを約7ヶ月間行いました。
OJT等の訓練を積むことで、初めは電話対応もうまく出来なかった訓練生でもしだいにコミュニケーション能力が向上して十分な実務スキルを身に付けることができたといいます。
デュアルシステムに企業が協力することによって、高校生や大学生に対して社会人マナーやコミュニケーション能力の養成など、人材育成という企業に求められる社会的責任を果たすことにもつながっていることがわかります。
実施例③:青木鐵工所
地元に根ざした企業を目指す鉄鋼業の「株式会社 青木鐵工所」では、地元長野県にある須坂創成高校からの訓練生を受け入れています。
具体的な実施内容は、設計図CADソフトを使って椅子の設計図を作成し、ガス切断・溶接など製作に必要な作業までを行いました。
青木鐵工所のように、地域で「モノづくり」の技術を次世代に継承するためにデュアルシステムに協力している町工場の企業も多くあります。
長期的な視点から見ても、製造業全体の発展や利益につながるメリットがあります。
実施例④:モリイ製作所
「株式会社モリイ製作所」では、ポリテクセンター関西の若年者コース(日本版デュアルシステム機械加工技術科)に通う学生を受け入れています。
機械加工技術科に通う学生は、まず、機械加工技術や機械製図、測定技術、組み立て調整など、基礎から現場で必要な技術まで総合的に習得します。
その後、1ヶ月ほど企業実習を受け、企業とマッチングすれば採用に至ります。
この例にあるように、応募者が殺到する大手企業とは異なり、若手人材の採用が困難な中小企業にとって、高い技術能力を持つ若い人材の確保ができるメリットがあります。
実施例⑤:株式会社プロアシスト制御技術部生産システムグループ
「株式会社プロアシスト制御技術部生産システムグループ」では、ポリテクセンター関西の若年者コース(日本版デュアルシステム組込みソフトウェア科)に通う学生を受け入れています。
「組込みソフトウェア科」では、組込みシステム制御に関する理論やプログラミング技術を習得し、組込みソフトウェア技術者として必要な技術や理論を身に付けます。
その後、企業にて約1ヶ月間の訓練が実施され、企業と訓練生の双方がマッチングした場合には採用が成立します。
こちらの採用担当者の方は、就業意欲が高く社会人経験のある学生を早期に獲得できる効果を実感されているそうです。
このように、優秀な学生が在籍する学校と中小企業がコネクションを持てるメリットもあります。
まとめ
デュアルシステムの基礎知識と具体的な実施例をご紹介しました。
中小企業は、デュアルシステムへの協力で、優秀な若手人材の雇用機会創出やモノづくり産業の後継者育成、さらには経験豊富な若手人材が在籍する学校とのつながりも確保できるなど、幅広いメリットがあります。
デュアルシステムの活用は、若年層のキャリア教育を成功させる力を秘めた中小企業の協力があってこそ実現できることでしょう。