企業が自社の製品やサービスのシェアを広げるためには、他社競合との差別化を図り顧客獲得を行なっていく必要があります。
しかし、実は他社競合だけでなく、自社の製品同士で顧客を奪い合ってしまうことがあることをご存知でしょうか。
この現象をマーケティング用語で『カニバリゼーション』と呼ぶのですが、自社製品に類似するサービスが増えれば増えるほどこの現象は膨らみ、経営資源が無駄になってしまいます。
そこで今回は、カニバリゼーションの定義を企業の失敗事例を踏まえながらご紹介させて頂きます。
カニバリゼーションとは?
カニバリゼーションとは、一般的に「共食い」を意味する言葉で、マーケティングやビジネスの間では自社の製品同士が顧客を奪い合ってしまう現象のことをいいます。
例えば、ビール業界で有名な事例があります。
とあるビール会社が更なる販路拡大と売上アップを見込んで「発泡酒」の販売を始めたところ、今まで自社のビールを飲んでくれていた層まで安価な発泡酒を求めるようになってしまい、自社が元々提供していた「ビール」と新商品の「発泡酒」が顧客を奪い合ってしまい、結果的に利益を上げることが出来ませんでした。
このように自社の製品同士が顧客を奪い合ってしまうことは企業として好ましくありません。
つまり、カニバリゼーションは新たな類似商品を出す前に、マーケティング戦略として考えておく必要がある問題の一つなのです。
カニバリゼーションが発生する原因
カニバリゼーションが発生してしまう代表的な原因は以下の通りです。
・複数ある自社サービスのターゲットが被っている。
・同じエリアに自社の店舗を複数出店している。
・類似製品の差別化が図れていない。
・どの製品を見ても「見た目」が同じで違いが分からない。
このように、カニバリゼーションは「同じターゲット層」に対して新たな製品・サービスを増やすことで巻き起こります。
特に昨今はコモディティー化が進み、似た製品やサービスが市場に溢れています。そのため、他社競合のみだけでなく、自社の製品同士が争い合うことも珍しいことではありません。
まずは、これらの原因をそれぞれ理解し、その対策を自社製品に落とし込むことが必要です。
それでは、さらに詳しくカニバリゼーションが発生した企業の事例を紹介していきます。
カニバリゼーション|企業の失敗事例
事例①|AOKIホールディングス
大手アパレルメーカーのAOKIホールディングスが提供しているスーツレンタル(サブスク月額7,800円)のサービスは、利用者が増えたにも関わらず失敗してしまいました。
もともとスーツレンタルのサービスは20代、30代にターゲットを絞り、若い世代にも気軽にスーツを使って貰いたいという想いからサービスを開始しましが、実際のところはAOKIでよくスーツを購入していた40代、50代の顧客がこのサービスに流れてしまったことが原因として考えられます。
もちろん、失敗してしまった理由はカニバリゼーションだけとは限りませんが、このように狙ったターゲットが利用してくれず、既存の顧客が新たなサービスに流れてしまう場合もあります。
事例②|いきなりステーキ
マーケティング戦略に『ドミナント戦略』と呼ばれる戦略があります。
ドミナント戦略とは、フランチャイズ展開を行なっているサービスが特定のエリアに経営資源を集中的に投下し、市場での占有率を高めるために出店を増やしていく戦略です。コンビニや立ち食いそば等はこの戦略を用いることが多いです。
そして、このドミナント戦略を活用して市場のシェアを拡大したのがペッパーフードサービスを代表する、いきなりステーキです。
しかし、いきなりステーキの場合、同一エリアに店舗を増やしすぎ、店舗同士での顧客の奪い合いが激化。店舗閉鎖や新規出店の縮小が相次ぎました。
まさにカニバリゼーションが原因で業績低迷にまで追い込まれた事例です。
カニバリゼーションが企業に与えるデメリット
以上のようにカニバリゼーションは企業に様々なデメリットをもたらします。
特に大きなデメリットは以下の2点です。
デメリット①|経営資源を取り合ってしまう。
自社によく似た製品やサービスがある場合、自社の製品同士で争ってしまうため、経営資源を取り合ってしまい、結果的に投資が無駄に終わってしまう場合があります。
本来であれば、その資源は他社競合との差別化に使えたはずが、カニバリゼーションが発生することで無駄になってしまいます。
デメリット②|他社競合との競争力の低下。
カニバリゼーションに陥ってしまい、自社の製品同士で顧客を奪い合っていると、他社競合に対する対策を行う余力が減ってきます。
特に他社競合の方が優れている場合、カニバリゼーションが発生した状態では太刀打ちできる余裕がありません。
最悪の場合、自社の製品同士が顧客を奪い合っている間に他社競合に市場のシェアを奪われてしまうこともあり得ます。
カニバリゼーションを避けるための対策
それではカニバリゼーションを避けるための対策について説明していきます。
カニバリゼーションを避けるための対策は大きく分けて以下の2つです。
【1】明確なターゲット設定
【2】自社製品の差別化
それでは2つのポイントを説明していきます。
【1】明確なターゲット設定
まずカニバリゼーションを避けるために大事なのは、自社製品がターゲットとする顧客層をズラすことです。
年代や性別、職業、ライフスタイルによってニーズは異なります。特に、新しいサービスを立ち上げる際は、あらかじめ既存サービスとターゲットが被っていないかをチェックしましょう。
また、製品を提供し続けているうちに顧客層が徐々に既存製品と被ってしまいそうな時は、『リポジショニング』することも有効的です。
【2】自社製品の差別化
自社製品の差別化もカニバリゼーションを避けるために有効的な手法です。
類似製品のシリーズであったとしても消費者のニーズに合わせて差別化を行えば、カニバリゼーション対策になります。
例えば、iPadのproシリーズやairシリーズなどのタブレット端末もカニバリゼーションが起こってもおかしくありません。
しかし、Apple社のiPadシリーズは、顧客ニーズに合わせて差別化を行なっていることから、シリーズ同士で顧客を奪い合うことはありません。むしろ両方とも購入する場合もあるくらいです。
このように自社の製品であっても「差別化」は十分に行うべき戦略となります。
カニバリぜーションを戦略として活用する方法
ここまでカニバリゼーションの問題点を解説してきましたが、逆に上手く使いこなすことで企業の成長に繋げることもできます。
それでは、トヨタ自動車の事例とともに説明していきます。
◉戦略的にカニバリぜーションを活用した事例
戦略的にカニバリゼーションを行なっている事例として有名なのがトヨタ自動車です。
トヨタ自動車は同じエリアに下記の販売店を展開しています。
・トヨタカローラ
・ネッツ
・トヨペット
・レクサス
・トヨタ
これだけディーラーが多いとカニバリゼーションが起こりそうですよね。
しかし、トヨタ自動車はそれを逆手に取り、あえてディーラー同士で競い合えるよう同じエリアに展開していくことで、他社競合が参入する隙をなくし、ディーラー同士が競い合うことでサービスの向上につなげています。
このように、低価格帯の大衆車から高級車までのラインナップを同じエリアに揃えることで、トヨタ自動車は売上を維持しているのです。
まとめ|カニバリゼーションの特性を理解してマーケティング戦略を構築しよう!
カニバリゼーションは、自社の製品同士で顧客を奪い合ってしまう現象です。
せっかく自社の製品に経営資源を投入しても、結果的に業績に悪影響を及ぼすようでは本末転倒です。
こうならないためにも、カニバリゼーションの特性を理解した上でマーケティング戦略を構築することが必要不可欠です。
そのためには、まずは「ターゲット設定」と「差別化」が重要です。
これらの施策は他社競合と争う際に考えるものですが、自社製品においても同様に考える必要があります。
ぜひ本記事を参考に、マーケティング戦略にお役立て頂ければと思います。