ウェルビーイングとは?
ウェルビーイングとは、心身ともに良好なことを意味します。
1948年のWHO(世界保健機関)の憲章で記載されたのがきっかけで、社会福祉分野で多く利用されるようになりました。近年ではビジネスでも多く用いられています。
一方、ウェルビーイングと類似した言葉に、「welfare(ウェルフェア)」があります。こちらは「福祉・福利」などの意味で用いられることが多いと言えるでしょう。
いずれも「幸福」の意味合いで使われますが、ウェルビーイングが「目的」の意味を持つのに対して、ウェルフェアは方法として用いられることが多いという違いがあります。
ウェルビーイングがビジネスに必要な理由
ウェルビーイングがビジネス上でも注目されるようになったのは、社会価値の変化や労働人口の減少が理由と考えられています。
働き方の変化
従来のように朝からオフィスに出勤し、定時まで勤務して働くという決まったスタイルではなく、テレワークなどに代表されるように、個々のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を求める人も増えています。
「自分らしい働き方」を追求するためには、ウェルビーイングの考え方の理解は不可欠だと言えるものです。
働く人にとって居心地のいい環境へ
日本だけでなく、世界各地の先進諸国では少子高齢化が進んでいます。結果として労働人口の減少にもつながり、労働力不足という深刻な問題の一因となっています。
他方で企業の求人は全体的に見れば増加傾向にあり、労働力の担い手は減っているにも関わらず、求人数は増加するというアンバランスな状況です。
企業としてはできるだけ良い人材に定着してもらうには、労働者にとって働きやすい環境を整えなければなりません。
従来のように給与と待遇を引き上げるだけでは不十分であり、ウェルビーイングを尊重した労働環境を意識することが大切と言えるでしょう。
働き方改革の影響
ウェルビーイングが注目されるようになった背景には、国策として働き方改革が叫ばれるようになった事実があるのも見逃せません。
滅私奉公のような働き方ではなく、余暇も充実させようという「ワークライフバランス」の実現を従業員にかなえさせるのが、企業にとっても重要な経営課題になっているのです。
世界におけるウェルビーイングへの取り組み
ウェルビーイングの先進国としては、オーストラリアやオランダがよく知られています。
オーストラリアのケース
オーストラリアのウェルビーイング施策では、仕事をする時間や場所を自由に選択できるABW(Activity Based Working)が注目されています。
ABWはオランダで誕生した働き方で、優秀な人材に長期間働いてもらうには、社員の幸福度アップが定着につながるという考え方から誕生しました。
これを参考にしたオーストラリアでは、国がイニシアチブを取ってウェルビーイングを推進し、幸福度大国と呼ばれるようにまで成長しました。
ABWがもたらしたメリットは、企業にとっては「コスト削減」、社員にとっては「ワークライフバランスの実現」と、Win-Winの関係が構築できています。
オランダのケース
オランダのウェルビーイング施策では、ワークシェアリングが注目されています。
ワークシェアリングとは、労働者同士で業務を分担して、一人ひとりの負担を軽減することを目的とした働き方です。
1982年時点ではオランダの失業率は12%と高水準で推移していましたが、ワークシェアリングを導入した後は、失業率が2%まで下がりました。
さらに、女性や高齢者にもワークシェアリングの対象を広げたことから、労働者が増え、労働市場が広がったと言われています。
日本のウェルビーイングが低い理由
一方、日本では「持続的な幸福感」を得られにくいというデータがあります。
アメリカにあるギャラップ社のデータを元に国連がまとめた「世界幸福度リポート2020」によると、日本の幸福度は153カ国・地域において62位でした。
以前のリポートでは2018年が54位、2019年が58位というデータがありますから、幸福度は下がっていると分かります。
日本の平均寿命は世界1位であり、一人当たりのGDPはOECD加盟国37カ国中19位という数字的には豊かな国と言えるでしょう。
それにも関わらず、実際の幸福度に反映されない原因としては、日本人の自己肯定感が低くウェルビーイングを感じにくいと考えられます。
ですが、日本でもウェルビーイングへの注目度は高まっており、企業もこのような潮流は無視できないのではないでしょうか。
ウェルビーイングが注目されている理由
近年ウェルビーイングが注目される要因はいくつか考えられますが、次のような要因が挙げられています。
多様性を認めようという風潮
近年、「ダイバーシティ」という単語を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。この言葉には「多様性」という意味があり、性別や人種、宗教、ワークスタイルの枠組みにとらわれない考え方を指します。
年々グローバル化が進んでいる現代では、多様な考え方やバックグラウンドを持つ人々と出会う機会が増えていくでしょう。その際に、それぞれの能力を最大限に発揮し円滑なコミュニケーションを図るためには、多様性を認める関係とウェルビーイングが必要だと言われています。
必要な人材の確保
みずほ総合研究所の調査結果では、少子高齢化はますます進み、現在より45年後の日本の労働力人口は、2016年と比較して約40%減少するという試算が出ました。
これを労働力率に換算すると、全人口比において50%まで低下すると見られており、2016年と同等の水準まで労働力を引き上げるには、女性の労働力を男性と同じ水準にしなければならないと言われています。
また、労働力率を向上させるには、「病気療養と仕事の両立」「育児と仕事の両立」
が必要だという結果が公表されました。この調査結果からも、ウェルビーイングの考え方が求められるようになっていくでしょう。
働き方改革
2019年から提唱されている「働き方改革」においては、長時間労働の是正や、働き方の多様性を認め実現していかなければならないとされています。
さらに、2020年から問題となっている新型コロナウイルス感染症も、リモートワークの拡大などに影響を与えました。自宅で仕事ができるメリットもある反面、思わぬ精神面の不調やストレスに悩まされる事例も多発しています。
原因としては、リモートワークによりコミュニティが分断され、コミュニケーション不足だと考えられています。社員だけでなく、その家族にも影響をもたらしているため、軽視できないものとなっています。
この事例からも、働き方そのものについてもウェルビーイングが深く関係してると分かるのではないでしょうか。
SDGsの浸透
SDGsもよく耳にする言葉かもしれません。「持続可能な開発目標」と訳されることが多い言葉ですが、2001年に制定された「ミレニアム開発目標」の後継にあたる目標と考えると、イメージがしやすいかもしれません。
2015年9月に開かれた国連サミットの採択内容に記載され、2030年までに持続可能かつよりよい世界を目指すための国際目標として、提唱されています。
SDGsの項目のうち3つ目に、「すべての人に健康と福祉を」という項目が設けられています。まさにウェルビーイングの考え方の根幹であり、国際目標として掲げられていることを、企業は念頭に置くべきでしょう。
ウェルビーイングの構成要素
ウェルビーイングは、次の5つの要素で成り立っていると言われています。
キャリアウェルビーイング(Career well-being)
名称から仕事だけに着目しがちですが、プライベートも含む幸福度として考えます。
1日の中で多くの時間を占めるのが仕事ですが、それだけではなく、個人の趣味や子育ても含めた「ワークライフバランス」に近い意味で用いるのが、普通です。
家庭と仕事両方の幸福度のバランスを取りながら高めることで、個人のウェルビーイングを高めると言われています。
ソーシャル ウェルビーイング(Social well-being)
ソーシャルウェルビーイングは、対人関係において幸福を感じられるかどうかを重視します。多くの関係性を築けているかどうかではなく、一人ひとりと信頼関係を築けているかどうかが、重要なポイントです。
フィナンシャル ウェルビーイング(Financial well-being)
ファイナンシャルウェルビーイングは、経済的な幸福度の意味で用いられます。
従来のように満足できる報酬を得られるかどうかだけではなく、安心して生活を送るための資産管理・運用まで含む広い概念です。
精神的な余裕は経済的余裕に比例することが分かっています。経済的に不安要素を抱えると、それがストレスの原因になり、仕事や対人関係にも悪影響を与えかねません。
フィジカル ウェルビーイング(Physical well-being)
フィジカルウェルビーイングは、身体的・精神的な幸福度のことです。
自分が何かしたいと望んだときに、自然に取り組める健康状態やエネルギーを持ち合わせているのが、望ましいとされています。
たとえ健康であっても、仕事や対人関係でストレスを抱えている場合には、精神的エネルギーの低下につながりやすいものです。
日常生活を送る上で、どのようなことにも前向きに取り組める心身ともに健康状態を保つことが、重要なのです。
コミュニティ ウェルビーイング(Community well-being)
コミュニティウェルビーイングは、自分の周辺のコミュニティにおける幸福度を指します。住んでいる地域社会はもちろんのこと、所属する団体や勤務先も含めてコミュニティウェルビーイングを高めるのが大切です。
ウェルビーイングに取り組むメリット
ウェルビーイングは、先に述べたように個人だけでなく、次のような良い影響を企業にもたらします。
従業員の満足度アップ
ウェルビーイングを高めると従業員満足度の向上につながり、従業員も定着しやすくなります。
従業員満足度は、職場の人間関係や環境、福利厚生や働きがいなど働く上でのあらゆる面の満足度を総合的に表したものです。
従業員満足度が高い企業は、従業員の仕事に対するモチベーションも高く、業務にも積極的に取り組みます。また、コミュニティウェルビーイングが充実していれば、従業員同士の円滑な関係も築けていますから、生産性の向上にも反映されるでしょう。
離職率の低下
離職理由でよく挙げられるのが、「職場内の人間関係」です。
人間関係でのトラブルは大きなストレス要因となり、職場内の雰囲気が悪いと、それだけで生産性も低下しかねません。
仮に離職を思案していても、身近に真剣に向き合ってくれる人や、信頼できる同僚などがいる人は、離職も思いとどまるというケースもあります。
ウェルビーイングを高め、職場の雰囲気が好ましいものであるほど、離職率は低下すると考えられます。
働き方改革の促進
国の施策の一環として「働き方改革」が進められるようになった結果、多様な働き方が認められるようになり、それと同時にウェルビーイングも注目されるようになりました。
企業も仕事だけでなく、従業員の余暇の充実も配慮する「ワークライフバランス」は、今や企業でも重要な経営課題の一つです。
ウェルビーイングを高める方法
それでは、ウェルビーイングを高めるにはどのような方法があるのでしょうか。
コミュニケーション方法の見直し
ウェルビーイングを高めるためには、社内コミュニケーションが活発な状態が望ましいです。
良好な人間関係が築かれれば、上司は負荷の悩みやほんの少しの体調の変化に気づきやすくなります。
また、気軽に相談できる関係性が構築されていないと、悩みを抱えていても周りに相談できず、離職などにもつながりかねません。
コミュニケーション方法の改善には
• 1on1の定期的な面談
• チャットなど情報共有が簡単なツールの導入
• 社内イベントの企画・開催
などの具体的な方法があります。
評価方法の見直し
評価方法の改善も、ウェルビーイングの向上につなげる有効な手段です。
仕事への取り組み方や結果が正当に評価されたと従業員が感じなければ、そのままモチベーションの低下につながってしまいます。
「自分は株式会社にとって不要な人間だ」と感じると、仕事を頑張る意欲や目標を見失う恐れもあります。
評価方法の改善のためには、
• 明快な評価基準や項目を取り入れる
• 自社に適している評価方法の導入
• 部下への定期的なフィードバック
などが考えられるでしょう。
労働環境や福利厚生の整備
また、職場の労働環境や福利厚生の整備は、従業員の心身の健康を守るためにも書かせません。
従業員のモチベーションを高く維持し、能力を最大限に引き出すには、適切な体調管理やワークライフバランスなどが取れていることが大切です。
具体的な施策は、次のようなものがあります。
• 従業員の残業の徹底管理
• 福利厚生の充実