ブランドポートフォリオ戦略という言葉を知っていますか?
聞いたことはあるけど、詳しくは知らないという方は少なくないのではないでしょうか。
そこで、今回は、経営判断を行う上で最も重要な指標となる「ブランドポートフォリオ」をテーマに、その基本知識から目的、成功企業の事例をご紹介させて頂きます。
- ブランドポートフォリオ戦略とは?
- ブランドポートフォリオ戦略の目的
- ブランドポートフォリオ戦略を考える上で抑えるべきポイント
- ブランドポートフォリオ戦略の成功事例
ブランドポートフォリオとは
まず、「ポートフォリオ(portfolio)」とは、イタリア語の「portafoglio=書類を運ぶもの」に由来する英語で、「紙ばさみ」や「書類入れ」を意味します。
金融や証券の業界では、投資家の有価証券を「紙ばさみ」に入れて持ち運んでいたことから、投資家やファンドが保有している有価証券・金融資産の一覧表(あるいは、資産構成そのもの)を「ポートフォリオ」というようになりました。
現在では、そのブランド版が「ブランド・ポートフォリオ」と呼ばれています。
最近は企業のコモディティ化が進み、1つの企業がいくつものブランドを持っていることは珍しいことではありません。
例えば「7&Iグループ」は「セブンイレブン」「イトーヨーカドー」「セブン銀行」といくつものブランドを展開しています。
「ブランド・ポートフォリオ」とは、こうした複数のブランドを体型的に管理し、「市場で伸びそうなブランド」と「競合状況が厳しいブランド」とを分類し、どのブランドに資本を投下すべきかを判断する意思決定の枠組みとして扱われるものを指します。
ブランドポートフォリオ戦略とは
マーケティングの専門家で、ブランド理論の第一人者であるデービッド・A・アーカーは「ブランドポートフォリ戦略」を、
“ブランドポートフォリオ戦略(brand portfolio strategy)とは、ポートフォリオの構造とそのブランドの範囲・役割・相互関係を明確にするものだ。その目標はポートフォリオにシナジー、レバレッジ効果、明確さを持たせ、関連性があり、差別化され、活力あるブランドを創造することである。”
と定義しています。
この言葉の通り「ブランドポートフォリオ戦略」とは、各ブランドをポートフォリオとしてマネジメントすることにより、総合的な企業価値の向上に繋げるために必要な戦略であるということが窺えます。
ブランドポートフォリオ戦略の目的
ブランドポートフォリオ戦略の目的は、企業が所有する複数のブランド同士の相乗効果によって企業全体の価値を高めることです。
最近では、多くの企業が複数のブランドを展開し、様々な販売チャネルで市場に供給しています。
その反面で、各ブランドの扱う商品の種類や特性、ターゲット等が重複してしまい、非効率な企業施策に陥ってしまう可能性が高まります。
そこで、これらの問題を解決するために「ブランドポートフォリオ」を今一度見直し、戦略を再構築する必要があります。
ブランドポートフォリオ戦略3つのポイント
「ブランド・ポートフォリオ戦略」を考える上で以下の3つのポイントを押さえておく必要があります。
そして、これらのポイントを押さえることにより、個々のブランドの競争力とブランド全体による集合価値、ブランドを所有する企業の価値を高めていくことが可能となります。
- 自社の展開するブランド間でのカニバリを避ける
- ブランド間のブランドアイデンティティのズレを是正していく
- ブランドを複数保有することによるシナジーの強化
【1】自社の展開するブランド間でのカニバリを避ける
まず、カニバリとは「カニバリゼーション」の略で、身内であるはずの自社の店舗や、自社の事業同士で競合してしまう事を指します。
ブランド間でターゲットが重複してしまっては本末転倒です。
そのため、カニバリゼーションを避けるためには、ブランドの立ち位置や関係性を明確にすることが重要となります。
まずは、複数のブランドのターゲット層が重複していないか確認してみましょう。
【2】ブランド間のブランドアイデンティティのズレを是正していく
ブランド・アイデンティティの概念を提唱したデービッド・A・アーカー氏は、ブランド・アイデンティティについて、
”ブランドには、「ブランド・ビジョン」が必要である。そのブランドにこうなってほしいと強く願うイメージを、はっきりと言葉で説明したものだ。”
(出典:デービッド・アーカー著 「ブランド論」)
と説明しています。
つまり、ブランドメッセージが曖昧な場合「結局このブランドはなんなのか?」という疑問を消費者が抱き始めます。
これでは、消費者とブランド側の認識にズレが生じてしまうため、自分たちのブランドの特徴を明確に言語化し、一貫性のあるブランドメッセージを訴求していく必要があります。
【3】ブランドを複数保有することによるシナジーの強化
ブランドポートフォリオ戦略により、自社が抱える複数のブランドを可視化し体系的に管理することができます。
このことにより、ブランド間での相乗効果や、お互いのブランドの弱点を補完することができ、自社のブランドの価値をさらに高めることが可能となります。
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ブランドポートフォリオ戦略の中での「ポートフォリオ」
まず、冒頭で解説した通りブランドポートフォリオとは、企業の収益性や安全性、成長性を確認することができるものであり、さらにブランドの一覧をチェックすることで限られた経営資源を有効的に活用するための指標となるものでした。
そして、数多くの市場で競争が激化しコモディティ化 が進行するなか、「脱・コモディティ化」が経営戦略を立てる上で課題となっていることはこれまでの記事でもご紹介させて頂きました。
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最近では、脱・コモディティ化 の手段として「ブランドポートフォリオ戦略」を用いることで、ブランド価値の相対的な向上に役立てることができるのではないか?と関心が集まっています。
ここではその代表的な事例を【企業ブランド】と【独自ブランド】に分けてご紹介いたします。
ブランドポートフォリオ戦略における「企業ブランド」
まず、「企業ブランド」の事例として、みなさんご存知のコカ・コーラをご紹介します。
企業ブランド|コカ・コーラの事例
ザ コカ・コーラ カンパニーの製品ポートフォリオにおいて、売上高が10億ドルを超えるブランドは以下21ブランドと言われています。
「Aquarius」「Ayataka」「Coca-Cola」「Coca-Cola Zero」「Dasani」「Del Valle」 「Diet Coke/Coke Light」「Fanta」「FUZE TEA」「Georgia」「Gold Peak」「Ice Dew」「I LOHAS」「Minute Maid」 「Minute Maid Pulpy」「Powerade」「Schweppes 」「Simply」「smartwater」「Sprite」「vitaminwater」
(日本コカ・コーラ株式会社HPより:https://j.cocacola.co.jp/info/faq/detail.htm?faq=19141)
そのうち、日本発のブランドは「ジョージア」「アクエリアス」「い・ろ・は・す」「綾鷹」の4つです。
日本において圧倒的なシェア率を誇るコカ・コーラの清涼飲料水ですが、それぞれが独自のブランドを展開しており、「コーヒー=ジョージア」「スポーツ飲料水=アクエリアス」といったようにカニバリゼーションが発生しない設計となっています。
そして、一番注目すべきはコカ・コーラの発信するブランド・イメージは発売当初から現在まで一貫しているということ。
1962年の「スカッとさわやかコカ・コーラ」というキャッチコピーは、2006年に「Coke,please! – スカッとさわやかコカ・コーラ」というフレーズでリバイバル使用されています。
このように、コカ・コーラは「さわやか」な炭酸飲料というイメージを消費者に伝え続けています。
その結果、それは消費者にも受け入れられ、発売から120年以上が経った現在では世界200カ国以上で愛される炭酸飲料になりました。
歴史があるブランド故に、それぞれのロゴやイメージカラーから直ぐにそれがコカ・コーラの商品であると浮かんできます。
「ブランドメッセージの一貫性」に重きを置いた、お手本にするべきブランドポートフォリオ戦略の成功事例と言えるのではないでしょうか?
ブランドポートフォリオ戦略における「独立ブランド」
次に、「独立ブランド」としてP&Gの事例をご紹介します。
独立ブランド|P&Gの事例
P&Gのブランドポートフォリオ戦略で注目したいのが、企業名を出すことなく、独自のブランドのみでPRを行っている点です。
P&Gという名前は知っているけれど、具体的な商品名が思い浮かばない方も多いのではないでしょうか。
ちなみにP&Gのブランドポートフォリオは、約10のカテゴリーに基づいたグローバル・ビジネス・ユニット(GBU)を中心に編成されています。
1.ベビーケア
2.ファブリックケア
3.ファミリーケア
4.フェミニンケア
5.グルーミング
6.ヘアケア
7.ホームケア
8.オーラルケア
9.パーソナル
10.ヘルスケア、スキン&パーソナルケア
(参照:P&Gホームページ|https://jp.pg.com/structure-and-governance/corporate-structure/)
たとえば、スキンケア製品である「SK-II」や、乳幼児用紙おむつである「パンパース」などもP&Gの製品です。
しかしながら、どの製品名にも「P&G」と大々的に名乗ってはいません。
あえて名前を入れない戦略をとっている理由は2つ考えられます。
P&Gという名称を大々的に使わない理由
なぜ「P&G」と大々的に名乗っていないのか。
それは以下2つの理由が考えられます。
- 仮にいずれかの製品が炎上して不買運動などが起こった際、他の製品への影響を抑えられるため
- M&A(企業の合併・買収)をする必要に迫られた際、製品名が変わり消費者の混乱を防ぐため
上記2点を踏まえ、リスクヘッジとM&Aに備えるため、製品名のみをPRをしていくといった戦略をとっているのではないかと考えられます。
加えて、P&Gでは的確にターゲットを絞り込むことにより、より生活者に届くマーケティングを行っています。
ブランドポートフォリオ戦略において、カニバリゼーションが生じないように、ターゲットベースで商品開発を行っている点も参考にすべき点となります。
以上、企業ブランドと独自ブランドの事例をご紹介させて頂きました。
自社にとって最も適した方法を実践していくことが1番の近道となりますので、事例を基に自社のブランドに最も適した手法を模索していきましょう。
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ブランドポートフォリオ戦略を実施する上での注意点
ここまで、ブランドポートフォリオやその戦略、成功事例をご紹介させて頂きました。
最後に、ブランドポートフォリオ戦略を実装していく上での注意点を説明させて頂きます。
ブランドポートフォリオ戦略を実装していく上で、経営者が「何にコミットしていくのか?」を明確にする必要があります。
バランス感覚が求められる経営において、最も重視する指標を社内/社外に対し経営計画などで明確に宣言することは、部下たちに方向性を示すことになります。
同時に、経営判断に迷いが生じたときに本来の方向性(コミットメント内容)を見失わないための道標にもなります。
特に、変化の激しい現代において、ブランドの需要が減ってくるケースもあります。
その際にポートフォリオを見返し、最悪の場合ブランドの廃止や切り離しすることも視野に入れなければいけません。
こうした時代の変化によって経営判断に迷いが生じた際に備え、「ブランドが目指したい本来の方向性」はブレないようにしておく必要があります。
一方で、大元のブランドから切り離された後に経営の自由度を獲得し、柔軟性のある事業運営を実現しているという事例もあります。
◉良品計画の事例
例えば、無印良品を展開する株式会社良品計画は、元は西友のプライベートブランドです。
バブル全盛期の1980年代に、消費者はわかりやすい「ブランド」を支持する風潮がありましたが、あえて西友は「ブランドがないブランド」として【無印良品】を展開しました。
主に雑貨屋、衣服、加工食品を東京の青山で「無印良品」として売り出したところ、今までにない「ブランド」として認知されるようになったのです。
その結果、1985年の時点で無印良品のブランドは140億円の売り上げを計上。
1つのブランドが100億円規模の売り上げに達したため、1989年には西友から独立する形で良品計画が設立されました。
(参照:良品計画の歴史|https://the-shashi.com/tse/7453/)
このように大元のブランドから切り離すことにより、経営の自由度が増し、新たな経営資源の獲得に繋がった事例もあります。
つまり、ブランドポートフォリオから切り離した事業(ブランド)を全て「ダメな事業、失敗した事業」と扱うのは非常に危険です。
まずは、ポートフォリオを見返し、独自ブランドとして成長できるケースもあるということを心に留めておくことだけでも機会損失は軽減できます。
そこを見落とさないように柔軟な戦略立てを行うことが、ブランドポートフォリオ戦略を実装していく上で一番気をつけたいところなのかもしれません。
ブランディングができている企業にはどんな良いことがあるのか?
まとめ
今回はブランドポートフォリオの基本知識からその目的、成功企業の事例をご紹介させて頂きました。
ブランドポートフォリオは経営判断を行う上で最も重要な指標です。
特に複数のブランドを展開している場合、方向性を見失うこともあります。
そうならないためにも、ポートフォリオを基に、経営/ブランディング/マーケティングの観点から戦略を立てておくことで、ブランド本来の方向性に立ち返ることができます。
コモディティ化が進み商品のクオリティや価格が均一になってきている昨今、常に時流を読み差別化を行いながらブランドを成長させていくためにも是非とも本記事を参考に戦略立てを行ってみてはいかがでしょうか。