近年、急速に進むリモートワーク化やグローバル化と言ったビジネスにおける環境の変化によって日本の企業の変革も必要不可欠な時代になってきました。
今回は、その中でも最近よく耳にする「コーポレートコミュニケーション」について、その概念から、必要性まで詳しく説明していきます!
①コーポレートコミュニケーションとは
コーポレートコミュニケーションとは、企業全体のイメージ向上などのために企業の理念や活動内容を社会や消費者と共有する活動です。
また、このコミュニケーションは他にも取引先や株主、地域住民などその企業を取り巻く様々な関係者の間に生じ双方向性(お互いにコミュニケーションを取り合う、一方的ではない)のコミュニケーションでもあります。
この「コーポレートコミュニケーション」という言葉が認知されるようになったのは、アメリカの「FORTUNE」において、「コーポレートコミュニケーションセミナー」という名目で企業と社会・消費者との関係性について、いかに良好な関係を築いていくのかについて議論されたためだと考えられています。
その後アメリカの企業を中心としてその考えが取り入れられるようになり、日本に取り入れられたのは80年代後半からで言葉としてはるか昔からあったわけではなく、比較的に新しい言葉になります。
そんな「コーポレートコミュニケーション」の具体的な取り組みとしては、商品のプロモーションやIR、広報などの取り組みが挙げられ、活動を通して消費者や社会から企業活動の支持・理解を得ることでマーケティングの戦略にも繋がります。
②コーポレートコミュニケーションの分類
コーポレートコミュニケーションは先述したとおり、「企業の理念やサービスを消費者などの企業の関係者に伝える」活動であり、その活動は大きく
・経営に関するコミュニケーションの経営コミュニケーション
・マーケティングに関わるコミュニケーションのマーケティング・コミュニケーション
・組織に関わるコミュニケーションの組織コミュニケーション
の三つに分類されます。
次は、それぞれのコミュニケーションについて説明していきます。
経営コミュニケーション
経営コミュニケーションというのは、企業の内部・外部を問わずに、発生するコミュニケーションで、このコミュニケーションを通して、企業の理念の共有を行い企業の評価の向上を目指すことが目的になります。
具体的な活動としては、経営者のスピーチやIR(投資家とのコミュニケーション)がこれにあたります。
IR(投資家とのコミュニケーション)では、企業が投資家に対して、投資判断に必要な情報を提供し、企業の将来について意見交換することで、お互いの理解を深め信頼関係を構築し、資本市場での正当な評価を得ることができ、さらに、外部からの意見を取り入れることで経営の質を上げることができます。
経営コミュニケーションではこのように、その企業の評価に直結する性質を持っており、その重要性から、最近では、その分野の専門家とともに、コミュニケーションの原稿が作られることが多くなっています。
この経営コミュニケーションは、企業の中で担当する部署が社長室、広報など、企業によって異なるが、いずれの場合でも、経営を左右するコミュニケーションであることから、経営者ないし、社長が携わりやすい体制を構築する必要があります。
マーケティングコミュニケーション
マーケティングコミュニケーションは商品の販売、サービスの提供などを支援するもので具体的な活動としては、商品別の広告やダイレクトメッセージがこれにあたります。
このマーケティングコミュニケーションは、新聞やテレビなどの公的なメディアを用いて製品・サービスの需要を消費者にアピールするもので、公的なメディアを使用されるなど、消費者とコミュニケーションを取るのが企業などの団体になり、非個人的なコミュニケーションになりやすい。
マーケティングコミュニケーションを執り行う社内組織は、日本では、広告宣伝部が最も多くなります。しかし、「マーケティング」というのは企業が展開するサービスや商品の売り上げに直結する部分でもあります。
商品・サービスを展開するということは、「企業がどんな思いで商品・サービスを作っているのか?」「その商品・サービスの魅力はどこなのか?」など、企業のコンセプトに関わる部分ですので、そこで矛盾が生じないようにするために経営陣との連携も必要になるコミュニケーションです。
組織コミュニケーション
組織コミュニケーションとは、様々な利害関係者とのコミュニケーションや企業内部でのコミュニケーションなどの様々なコミュニケーションを含んでおり、その中には会社のPRなども含まれるなど、一概に定義づけが難しいコミュニケーションです。
それでも、経営コミュニケーションやマーケティングコミュニケーションとは明らかに区別されるもので、特徴としては以下のものが挙げられる。
1その企業のあらゆる利害関係者とのコミュニケーションが含まれる
2内部のコミュニケーションが重要視される
3親会社・子会社でのコミュニケーションも含まれる
4発信されるようなメッセージが公的なもので、企業の価値を誇大化するようなものではない
5長期視点で発信されるもので短期的な売り上げが目指すものではない
経営コミュニケーションは上記で示したとおり、マーケティングコミュニケーションとは異なり、コミュニケーションを行う対象が消費者に限らず、企業のあらゆる利害関係者が含まれる。
また、企業の内部に対するコミュニケーション、外部に対するコミュニケーションの両方の性質を持ち合わせる点で、マーケティングコミュニケーションと区別される。
具体的には、外部のコミュニケーションとしては企業の広報活動、内部のコミュニケーションとしては企業内の従業員間のコミュニケーションが挙げられる。
外部のコミュニケーションは、消費者に限らず、政府や他企業に対する発信も含まれている。
内部のコミュニケーションでは、従業員と経営陣のコミュニケーションを取ることで、双方の間に有効な関係を築くことで職務活動へのモチベーションを向上させることを目的となっている。
③コーポレートコミュニケーションが必要な理由
そもそもなぜ、この「コーポレートコミュニケーション」の必要性について問われるようになったのかというと、その理由には時代的背景に関係しています。
高度経済成長期前、まだ日本が発展する前の頃、それまでは、日本は物質的豊かさが現在と比べると決して水準が高かったわけではなく、そのため、消費者が生産者(企業)に対して、商品に関して意見をあれこれ言える状況ではありませんでした。
しかし、高度経済成長期を経て現在に至るまで、日本は大きな変化を遂げました。物質的に豊かになったことで、消費者は商品を購入するときに、商品の機能や費用を比較検討するようになりました。
つまり、消費者が商品やサービスを選ぶようになったのです。
ですから、企業は今までのような「黙っていてもいい商品さえ作っていれば売れる」という状況から一変して、「他の企業のものではなく、いかに自社の商品を買ってもらうか」を試行錯誤する必要が新たに出てきたと言えるでしょう。
その一環として、「自社のサービス・理念をいかに伝えるのか」というコーポレートコミュニケーションは重要な活動と言えるでしょう。
④コーポレートコミュニケーションを成功させるには?
会社の理念、意図がしっかり伝わるような「一貫性のある」情報発信
コーポレートコミュニケーションで重要になってくる、情報発信による「企業の理念や意図の共有」ですが、コミュニケーションの取り方や表現の仕方がどんなに素晴らしくても、その内容に「一貫性」がない場合、人々の共感を得ることは困難になります。
また、情報発信には、その内容の一貫性だけではなく、タイミングも非常に重要で、「一貫性」と「タイミング」の両方を兼ね備えた情報発信が重要です。
情報の受け手の知識、態度、行動を変化させる
一般的に、コミュニケーションが成功したと判断されるのは、そのコミュニケーションを通して、コミュニケーションの受け手の知識が増えたり、行動・態度が変化した時とされる。
これをコーポレートコミュニケーションに置き換えて考えると、コーポレートコミュニケーションを通じて、消費者が企業の理念が伝わることで商品の購買に繋がったり、自社の従業員に企業のコンセプトが伝えることで、勤務意欲が向上して、商品サービスの質の向上につながる。
しかし、コミュニケーションを取るときに、受け取り手の知識、態度、行動の全てを変えようとすると失敗に終わる可能性が大きく、しっかりと目的意識を持ったコミュニケーションが重要になります。
口コミサイトで高評価を得るようなサービスを。
コーポレートコミュニケーションの目的は、「企業の理念・価値を共有」することで、「企業の価値を向上すること」です。
企業の価値の向上には、ただ「利益が〇〇億円」上がっているという財政面などの客観的事実ももちろん重要ですが、どんなに素晴らしい客観的事実があっても、それを投資家に伝えることができなければ、良い効果は見込めないでしょう。
つまり、「いかにして企業の価値を伝えるのか?」というのも重要な観点になってきます。
その際に「口コミ」というのは、一つの手段として効果的です。
企業はテレビ広告、新聞広告、IRなどの様々な手段を通じて、企業の価値を伝えようとしますが、どんなに企業が頑張ってPRしても、超えられない壁があります。
それは、「自社のことを悪く言うわけが無いし、いいことしか言わないよね」という壁です。
企業は自社のことを宣伝しているわけですから、当然、「自社の製品の弱点はこんなところです!」なんて大々的には伝えません。それは消費者含めて、受け手側も理解していることです。
そこで、その弱点を補えるのが「口コミ」になってきます。
「口コミ」というのは、企業のサービスを利用した率直な感想になるので、企業側がコントロールできない反面、「商品の良し悪しを正直に言える」と言うところで、消費者も参考にするものになります。
本当にそうかなと思われる方もいらっしゃると思いますが、もし自分が何らかの商品の購入を検討している際に友達に「その商品、俺も使ってて、むっちゃいいよ!」と言われたら、その商品を購入したくなりませんか?
「口コミ」というのは、これと同様の効果を持っています。
また近年、SNSの利用者の増加に伴って、あらゆる商品・サービスに関する投稿が溢れており、消費者もその情報を簡単に得ることができるようになっています。
もちろん「口コミ」というものをコントロールすることができれば良いのですが、コントロールすることができれば、本来の効果を得られません。
ですので、企業側は、消費者に喜んでもらえるような、思わず誰かに勧めたくなるような商品・サービスの開発が志す必要があります。
⑤成功事例
ジョンソンエンドジョンソンのコーポレートコミュニケーション
製薬、医療機器などを含めたヘルスケア関連製品を取り扱う多国籍企業であるジョンソンエンドジョンソンですが、1982年に、同社の解熱鎮痛剤のタイレノールに第三者からシアン化合物を混入されたことで、それを使用した七人が死亡する悲惨な事件が起きました。
事件直後、ジョンソンエンドジョンソンは、すぐに2200万本の製品の回収を行い、マスコミに積極的に情報提供、専用フリーダイヤルの設置など徹底した対応を行いました。
その徹底した誠実な対応によって、ジョンソンエンドジョンソンは、早期の信頼回復に成功しました。
コーポレートコミュニケーションの観点からでいくと、事件直後、大きな損失は承知の上ですぐに製品回収を行ったことや、メディア等を通じて企業のあらゆる関係者を活用してブランド保持に努めたこと、企業の短期的な利益を気にして法律に反しているかいなかを判断した上で対応するのではなく、人の命の大きさなどのモラルの面も考慮した対応だったことが、企業の価値を長期的に損なうことを回避できました
⑥失敗事例
コーポレートコミュニケーションの失敗事例として、私たちの身近なメーカーであるナイキで起こった事態について説明します。
その事態というのは、ナイキの下請け企業にて、未成年の従業員が1時間あたり日本円で15円という安い賃金で一日14時間労働させられていたという問題が発覚したことでした。
この事態の発覚当初、ナイキの当時の会長であるフィリップ・ナイト会長は、事実を否認していましたが、やがて、会長は「他の企業も似たようなことをやっているのではないか?」と自己弁護を始めました。
それによって、人々の反感を買い、ナイキの社会価値は下がり、不買運動による財務業績の悪化が起こりました。
このように不誠実なコーポレートコミュニケーションは企業価値を大きく損ねる可能性があります。