SBT(Science Based Targets)という言葉をご存知でしょうか?
昨今の地球温暖化による環境問題に対し、世界で次々と戦略が設立されている内の1つである「科学的根拠に基づいた目標設定」と訳される戦略です。
この記事では、SBTがどのような目標を設定されているのか、SBTに認定される方法やSBTの取得手順、SBTに取り組んだ際のメリットなどを説明していきます。
SBTとは
SBTとは、Science Based Targetsの頭文字をとった言葉であり、戦略としては企業が環境問題に取り組んでいることを示す目標の設定となります。
ここでいう目標設定とは、2015年以降で企業が5〜10年以内を目標に、温室効果ガス排出を2℃水準で毎年2.5%以上削減、1.5℃水準では毎年4.2%以上削減することです。
具体的には「自社の生産過程で排出される量」「他社から供給される電力・熱・蒸気の使用により排出される量」「その他の間接的に排出される量(移動や製品の使用、廃棄など)」が挙げられます。
加えて、サプライチェーン全体、事業にまつわるあらゆる温室効果ガス排出量を削減することが求められています。
そしてSBTの狙いは、温室効果ガスの排出を削減するためだけではありません。
この取り組みが世界的に広がることにより、スキル・専門性・想像力を持つ企業のSBTの設定が標準的なビジネスの慣習となることも、目指されているのです。
2023年1月10日時点において日本のSBT認定企業は350社で、2018年以降は一定数増加の傾向にあります。
加えて、世界的に見るとアメリカ・イギリスに次ぐ3位を維持しており、環境問題への関心が高いといっても過言ではありません。
SBTの認定を受けるために
では、環境問題への関心が高い指標ともなるSBTの認定を受けるためには、どのようにすれば良いでしょうか。
SBTの認定要件には、まずSBTが大前提として企業に求める基準が存在します。
・少なくともScope1および2の⽬標は、世界の気温上昇を産業⾰命以前と⽐較して、1.5℃以内に抑える⽔準でなければならない。
・少なくともScope3の⽬標は、世界の気温上昇を産業⾰命以前と⽐較して、2℃を⼗分に下回る⽔準に抑えるものでなければならない。
引用ページ:環境省 地球温暖化対策「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム サプライチェーン排出量算定から脱炭素経営へ」 SBTを設定したい方へ
引用URL:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/intr_trends.html
「第2部 SBTの設定」(PDF) より
この前提を乗り越えた先に、具体的なSBT認定要件がさらに4点あります。
・5~10年以内の範囲で、Scope3は毎年2.5%の温室効果ガスの排出削減を目指す。
・Scope1および2は、同じく5〜10年以内の範囲から毎年4.2%の温室効果ガスの排出削減を目指す。
・自社だけに限らず、サプライチェーン全体の温室効果ガスの削減を行う。
・認定後も、毎年の排出量や対策への進捗報告、目標の妥当性の確認を行う。
以上4点の企業への基本的な要求事項を満たすことができる企業が、SBT認定を受けることができるのです。
なお、温室効果ガスの排出削減を目指す旨が記されていますが、実は排出の削減に対する方法は、SBT認証への大きな審査対象ではありません。
SBTはそもそも、排出量の削減の目標設定や、その目標達成のための取り組みや投資額、また各ステークホルダーとの契約などに主眼をおいたものです。
そのため、具体的な削減手法や実現可能性については、妥協点を見つけることも頭に入れておいて良いでしょう。
SBT認証の申請方法
SBT認証を取得するための申請には、6つの手順を踏む必要があります。
①【任意】Commitment Letterを事務局に提出
・コミットとは、2年以内にSBT設定を⾏うという宣⾔のこと
・コミットした場合にはSBT事務局、CDP、WMBのウェブサイトにて公表される
・企業名、日付、場所、署名が必要
②⽬標を設定し、⽬標認定申請書を事務局に提出
・Target Submission Formを事務局に提出し、審査⽇をSBTi booking systemで予約
・⽬標認定申請書への記載事項は以下の12点
⽬標の妥当性確認に関する要望
基本情報(企業名、連絡先など)
GHGインベントリに関する質問(組織範囲など)
Scope1,2に関する質問
バイオエネルギーに関する質問
Scope3に関する質問
算定除外に関する質問
GHGインベントリ情報(Scope1,2,3排出量)
削減⽬標(Scope1,2,3⽬標)
⽬標の再計算と進捗報告
補⾜情報
申請費⽤の⽀払情報
③SBT事務局による⽬標の妥当性確認・回答(有料)
・事務局は認定基準への該否を審査し、メールで回答(否定する場合は、理由も含む)
・⽬標の妥当性確認には、USD9,500(外税)の申請費⽤が必要(最⼤2回の⽬標評価を受けられる)
• 以降の⽬標再提出は、1回につきUSD4,750(外税)の申請費⽤が必要
④認定された場合は、SBT等のウェブサイトにて公表
⑤排出量と対策の進捗状況を、年1回報告し、開⽰
⑥定期的に、⽬標の妥当性の確認
・⼤きな変化が⽣じた場合は必要に応じ⽬標を再設定(少なくとも5年に1度は再評価)
引用ページ:環境省 地球温暖化対策「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム サプライチェーン排出量算定から脱炭素経営へ」 SBTを設定したい方へ
引用URL:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/intr_trends.html
「第2部 SBTの設定」(PDF)より
SBT認証から得られるメリットとは
SBT認証をしたことにより、企業としてどのようなメリットが得られるのでしょう。
まず、SBTの大きな目標ともいえる温室効果ガスの排出を抑えるといった、環境問題の解決に貢献できることがメリットです。
地球温暖化の問題は、単純に気温を上昇させるだけにとどまらず、気候変動や自然災害、生物の絶滅なども引き起こしています。
現実的に温室効果ガスの排出を削減させれば、企業としてSDGsへの取り組み、環境貢献を行なっている実感を得ることができます。
次に、各企業の環境問題への取り組みや環境情報を投資家に向けて提供することで、自社アピールに繋げられるのもメリットです。
SBTなどの環境への取り組みを行う企業は、自社がいつまでにどれくらいの温室効果ガスを削減するのかといった具体的な目標と行動を公表する必要があります。
そのため、消費者からも高い評価を得られやすく、企業のイメージアップに繋がりやすいのです。
加えて、再生可能エネルギーへの転換が、企業全体のコスト削減になるのをご存じでしたか?
これまでは再生可能エネルギーは固定価格で買い取られていましたが、これからは売電価格に対して一定の補助額が上乗せされるのです。
政府が導入を検討しているカーボンプライシング=「炭素に価格を付けて排出者の行動を変容させる」政策手法が施行された場合、企業は二酸化炭素の排出量に応じて支払いが生じます。
しかしながら、既に再生可能エネルギーへの転換を導入していれば、余分な費用を節約する効果も見込めるでしょう。
そして、温室効果ガスを削減する目標を立てたことで、企業全体がこれまでの活動を見直す必要が出てきます。
その過程で、運用状況の改善や新たな技術が生み出されれば、社員は環境問題に貢献できるだけでなく、意欲や生産性の向上、発想力などが高められるのです。
まとめ
2015年のパリ協定で誕生した温室効果ガス排出削減⽬標=SBTについて紹介しました。
SBTの認証のためには、温室効果ガス排出量をサプライチェーン全体で捉える必要があり、結果的に環境問題へ貢献することができます。
加えて、SBTの認証を受けたあとは、投資家や消費者などへの企業アピールにもなり、企業のイメージアップにも繋がっていきます。
SDGsへの取り組みは何をすれば良いのか悩んでいる場合、SBTの認証をSDGsへの取り組みの第1歩として、活用してみるのもオススメです。