企業で活動する人材には、いくつかの「タイプ」があります。
例えば、専門とする知識に強いタイプ、反対に、いろいろなジャンルの内容を幅広くこなすことができるタイプの人材というのもいます。
しかしながら、「○型人材」「○タイプ」などと言われても、どのようなタイプの人材のことを指しているのか、ピンと来ないというパターンもあるでしょう。
この記事では、人材タイプからみる「T型人材」とはどのようなタイプの人材か、他にどのようなタイプの人材がいるのか、そして、T型人材が活躍できるように育成するためのポイントなどについても解説します。
T型人材とは?
人材のタイプ別のうち「T型人材」と呼ばれるタイプの人材とはなんでしょうか。
T型人材を一言で言い表すならば、「専門性と幅広いジャンルの知見がある人材」のことを意味します。
アルファベットの「T」の文字を描いた際に、縦線を「専門性の深さ」として、横線を「視野の広さ」に見立てたことによって、こうした人材のことを「T型人材」と呼称しているとされています。
従来のビジネス分野における人材の類型については、「スペシャリスト型」と「ゼネラリスト型」という類型が一般的でした。
すなわち、「スペシャリスト型」は深い専門知識・専門性を武器として、技術職や頭脳労働、研究職・専門職などの場面で需要が高いとされています。
一方で「ゼネラリスト型」の人材は幅広いジャンルや環境に対する適応力があり、チームの中枢やリーダーといった役割を担うことが一般的でした。
このような視点は現在でも用いられることがありますが、この記事において言及している「T型人材」は、そのまま「スペシャリスト」と「ゼネラリスト」の特徴の両方を持っている人材であると理解するとよいでしょう。
この「T型人材」こそが、現代のビジネスシーンにおいて重要な人材として注目を集めています。
人事で使われるその他のタイプ別人材とは
T型人材以外にも、人材の類型はいくつか存在します。
まず「I型人材」というタイプがあり、これは「T」から横棒を抜き去った形が表すように、専門性に特化した人材であるといえます。
技術職などに多く見られる人材の類型のひとつであり、先の解説でも触れたように「スペシャリスト型」と呼ばれるタイプの人材類型です。
専門知識に関する深い知識・経験は、I型人材が発揮するシーンが多く、特にビジネスがIT・テクノロジーとの関わりなくしては成り立たなくなってきた高度経済成長期以降、この「I型人材」が企業にとって必要であると叫ばれてきました。
一見「スペシャリスト型」を極めた人材に見えるものの、専門性を持ちつつ、他の様々な分類・分野のスペシャリストと交流することができる人材の類型を「J型人材」と呼びます。
I型人材が、専門性に特化していながらも、他の人材とのコミュニケーションが不得手であったり無関心であるという弱点を持つ傾向が強いのですが、このJ型人材はその意味で、「コミュニケーション能力を体得したI型人材」と定義することもできるでしょう。
この「コミュニケーション」の部分に着目して見ると、「J型人材」と類似した概念に「H型人材」があります。
このH型人材というのは、自ら特定の分野を極めているうえに、他の分野の専門家とより密な繋がりを築くことができる人材です。
現代では、コラボレーションやタイアップなどの企画がヒットすることも多く、こうした「架け橋」となれる人材は非常に希少であり、企業にとって有益です。
T型人材と類型が近く、またさらにそれを発展させた類型として、「Π型人材」もまた、企業にとって注目するべき人材です。
Π型人材は、2つ以上の専門分野を極めており、かつ、広いジャンルの知識を併せ持つ人材のことを指しています。
T型人材を育成するためのポイントとメリット
T型人材は、先の項目で解説したように、専門分野の知識・経験という「スペシャリスト」の性質と、幅広い知識や視点を持つ「ゼネラリスト」の性質の2つを併せ持っています。
このような希少な人材は、企業にとって自社の組織にいることが大きなメリットとなります。
では、T型人材となるような人材を企業で育成するにあたっては、どのような育成を行うのがよいのでしょうか。
それには、「スペシャリスト」かつ「ゼネラリスト」となるために、本来的には全く反対の育成方針を組み合わせて育成を行っていく必要があります。
「スペシャリスト」としての性質を備えるためには、ある特定の分野に対して知識やスキルを伸ばしていく必要があります。
そのため、専門的な知識や経験が得られる部署に配属をしたうえで、技術や技能、またそれを裏付ける知識を蓄積させる必要があります。
スペシャリストの育成にあたっては、このような育成方針を在籍している限り行い続けるような育成方針がとられることが多いのですが、T型人材の育成には、これに対してさらにゼネラリスト型の経験も必要です。
多くの分野にかかわる業務や知識・情報に触れさせることが必要となるのです。
「ジョブローテーション」という言葉もありますが、企業内で違う部署への配置転換を行うことによって、社内で行われている業務の幅広い知識や経験が得られることから、このような方法を採用するのも有効な手段です。
もともと専門的な分野に深い知識をもっていたり、幅広い知識に対して関心があるという人材に対しては、自発的な「学び」や「経験」を企業側が提供し後押ししてあげるという方法も有効です。
例えば、カンファレンスやセミナーなどへの派遣、資格取得に対する補助、外部講師を招いての研修などは、企業が取り入れやすい施策です。
こうして、専門知識と幅広い視点・知見を持つT型人材が組織にいることによって、自社とは異なる幅広い業種を巻き込んだコラボレーションやイノベーションが起きやすくなります。
加えて、T型人材自身が持っている知見から導き出される独創性にすぐれたアイディア・企画が得られる可能性も高まります。
現代においては、定型業務やルーティンワークはほとんどコンピュータやシステムが代行しており、新たな技術としてAIによる定型業務の代行なども採用する企業が増えてきています。
このようなことから、社内で仕事をする「人材」には、定型的ではなく、オリジナリティのある発想、ユニークな知見に基づくイノベーションが求められているのです。
働き方の多様化とT型人材
現代では、コンピュータやネットワークを用いた、リモートワークやテレワークといった多様な働き方が認められてきています。
T型人材には、多様なジャンルへの知識や経験が求められますが、そうした多様な体験をするにあたっては、従来型の「オフィスワーク」とはなじまない考え方が出てくる場合もあります。
加えて、T型人材自身が、副業やリモートワークの経験に基づくあらたなビジネスのアイディアやユニークなイノベーションを起こす可能性も大いにあります。
会社での仕事といった従来型の観念にとらわれることなく、こうした人材が活躍できる場面を提供することは、企業にとって結果的にプラスになる可能性を秘めています。
もちろん、そうした柔軟な働き方を会社側が提供したことで、今までは「I型」と思っていた社員や、どの類型に該当するのか判断しかねていた社員にも、新たなイノベーションが生じてくる可能性も大いにあります。
まとめ
「働く」ということは、仕事をして賃金を得ることであるというのは昔から変わらないことです。
しかしながら、個々の仕事の内容を見ていけば、それは従来から大いに変わった部分が目につくでしょう。
今日では、従来のような「ひたすら定型的な業務を処理する」といった働き方よりも、世間に大きなインパクトを与えたり、これまでになかったイノベーションを起こし、新たなビジネスチャンスを作っていく人材が求められているところでもあります。
こうした世の中においては、この記事で解説した「T型人材」が欠かせません。
資格や技能といった、評価しやすい「能力」だけではなく、社員が果たす「役割」についてもよく検討して、人材の評価や育成を行っていくことが、これからの企業には求められているのです。