近年、社内の教育や研修に「アクティブラーニング」を取り入れる企業が増えてきています。
その背景には、ビジネスパーソンに求められる能力が受動的から能動的なものへ変化したことが関係しているのです。
そこでこの記事では、アクティブラーニングがどうビジネスに活用できるのか、メリットやデメリット、企業研修に活かす場合の注意点などについて解説していきます。
アクティブラーニングとは
アクティブラーニングとは、単なる知識の習得で終わらず、自ら学びを実行する能動的な学習法を指します。
従来の一般的な学習法は、研修や教材など与えられたツールを使って学習するものが中心で、積極的に自分から実行をするのはその中の一部です。
一方で、アクティブラーニングでは、自ら課題に対して高度な問題解決力や処理能力を積極的に実行し、答えを求めることが重視されます。
そのため、アクティブラーニングで身につけられるのは、思考力・判断力・表現力・主体性・多様性・協働性などの、業務上では直接教わらない能力です。
自ら行動することや、周りの人々と対話し、連携・協働して問題を解決する能力の習得、意見交換や議論により得た新たな考え方に気付き、知識を広げていく能力などが伸びていくでしょう。
つまり、アクティブラーニングは厳しいビジネス環境に対応する能力を身につけるためには、大変効果の高い学習方法と言っても過言ではありません。
アクティブラーニングが求められる背景
学校教育では、すでに広まりつつあるアクティブラーニングですが、企業が人材育成に取り入れる背景はどのようなものがあるのでしょう。
その背景には、社会の著しいグローバル化やIT産業の躍進、少子化などといった社会環境の変化が非常に深く関係しています。
社会環境の激しい変化に伴い、これまでに得た知識は気が付けば既に陳腐化されているのです。
そのため、単純に知識を増やすだけでなく、自ら学ぶ力を身に付けて時代の変化に対応できる能力が必要になります。
そして、日本全体の産業構造が従来のものづくりから、ITを駆使した産業へと大きな転換期を迎えました。
技術やノウハウが重要だった時代が、新しいものを創造する時代へ移行したため、思考力や主体性などが実になるアクティブラーニングを求めるには、十分な理由となるのです。
アクティブラーニングのメリット
企業は教育や研修にアクティブラーニングを導入することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
アクティブラーニングでは、現代のビジネス環境で必要とされるスキルの学習機会がたくさん含まれています。
そこで具体的に
・自発性が向上する
・問題を解決する力が向上する
・人材の早期戦力化が実現する
・発想力や創造力が向上する
・知識の定着率が実現する
・対人スキルが向上する
・支援型リーダーシップの養成に役立つ
上記、7つを紹介していきます。
自発性が向上する
アクティブラーニングでは、受講者自身に主体性が求められます。
企業研修は、あるビジネスのケースについて「自分ならどうするか」を問われるでしょう。
そのとき、自分で考えて答えを出し、さらにそれを実践するという経験を通して、日常業務での自発性の向上が期待できるのです。
問題を解決する力が向上する
アクティブラーニングの手法を導入した企業研修では、課題に対して受講者自身が自分で考え、検証と修正を繰り返し、最終的に自分で答えを出すという機会が増えていきます。
講師から知識や正解を教わるのも大事ですが、自分なりに考えて答えを出す手順を学べるため、問題を解決する力の向上に繋がります。
人材の早期戦力化が実現する
アクティブラーニングを新卒・中途問わず、新入社員向けに導入することにより、一般的な座学の研修よりも学習の効果を高められます。
さらに、業務を早く覚えることにも繋がるため、人材の早期戦力化を実現できるのです。
発想力や創造力が向上する
アクティブラーニングでは、得た知識について深く考察し、実践に活用できるかどうかを考える機会が多くあります。
個人で試行錯誤し、グループで意見交換をするのは、自分にはない観点や考え方に触れられ、新しいアイデアや斬新なアイデアを創造する力を高められるでしょう。
知識の定着率が実現する
アクティブラーニングは、受講者が主体的に授業へ参加し、提供される知識について考察し、他者と討議することで理解力や創造力が深まります。
このような体験が伴う学習の内容は、「エピソード記憶」として知識の定着を実現していきます。
対人スキルが向上する
アクティブラーニングでは、さまざまな部署のメンバーから構成されたチームで学習を進めることがあります。
普段接する機会のない社員との間に、コミュニケーションの時間が生まれるため、横の繋がりができ、実務面でも大きな効果が期待できます。
多くの対人スキルが求められることで、受講者は研修のテーマだけではなく、チームワークやコミュニケーション能力の向上も期待できます。
支援型リーダーシップの養成に役立つ
アクティブラーニングでは、受講者が主体です。
つまり、グループワークのリーダー役やその他の受講者は、1人1人がグループの目標達成のために自分は何をするべきか、どのような責任を果たすべきかを考え、実行する必要があります。
これは、現代社会に求められる「支援型リーダーシップ」の養成に非常に役立つのです。
アクティブラーニングのデメリット
アクティブラーニングには様々な効果がありますが、実践にあたってはいくつか注意が必要です。
まず、本当の意味でのアクティブな学習になっておらず、体系的な知識習得には適していないという側面があります。
例えば、グループワークにおいて、他のメンバーからの指示を受けて作業をするだけの受講者がいたとします。
この場合、受講者の身体は動いていますが、自身で深く考えたり、問題を発見したりすることはできていません。
つまり、アクティブな学習ができていないため、座学とアクティブラーニングを組み合わせるなどの工夫が求められます。
加えて、学習者の理解レベルや習得度合いを点数で評価することが難しいため、あらかじめ効果の測定基準や方法、フィードバックの仕組みを整えておきましょう。
それから、講師側に従来と異なる能力が求められるのもデメリットです。
アクティブラーニングの講師には、当該分野の専門知識や、コーチングや舵取りの技術が求められます。
従来の研修のように、自分が持っている知識を一方的に教える講義形式と比べると、臨機応変な対応力が講師へ求められます。
質の高い研修を実施するためには、必要なスキルを備えた専門の講師を探すか、講師の能力開発を行う必要があるでしょう。
そして最後に、モチベーションの低い受講者への対応も求められます。
アクティブラーニングは受講者の参加が前提ですが、性質的にそのやり方が合わない人もいます。
この問題には、事前に学習の目的を明確にして受講者によく理解してもらうことや、ゲーム要素を取り入れて雰囲気を盛り上げるなど、対策をすると良いでしょう。
アクティブラーニングを企業研修に活かす際のポイント
アクティブラーニングのメリット部分とデメリット部分の総括になりますが、アクティブラーニングを企業研修に活かす際のポイント、
・研修の設計を明確にする
・講師に高いスキルが求められる
・受講者の性格や能力よって学習の質が下がる
・学習を現場に活かすための工夫をする
の4つをご紹介します。
研修の設計を明確にする
アクティブラーニングはあくまで、学習手法の1つにすぎません。
そのため、すべての企業研修の設計には、研修の目的と対象者、ゴールを明確にすることが求められます。
逆に言えば、その3点が明確でないとアクティブラーニングを導入したとしても、効果的な研修にはなりません。
講師に高いスキルが求められる
アクティブラーニングの主体はあくまで受講者で、講師は舵を取る役に徹します。
そのため、講師は研修の目的やゴールから逸れることのないよう受講者に気付きを与え、ゴールへ誘導するための高いスキルが重要です。
受講者の性格や能力よって学習の質が下がる
アクティブラーニングのほとんどは受講者をチーム分けして、チームごとに学習を進めていきます。
その時、性質が合わず学習に積極的ではない受講者がいる、研修受講にあたって前提知識に乏しい受講者がいる場合、他の受講者の学習の質に影響するでしょう。
他の受講者から学ぶことが多いのがアクティブラーニングの利点ではありますが、他の受講者自体が学習の質を下げる可能性も考えられます。
学習を現場に活かすための工夫をする
人は、学んだことをすぐ忘れてしまう生き物です。
そのため、全ての企業研修に言えますが、忘れないためには学習した内容が現場に活かされる工夫が必要となります。
特に、アクティブラーニングは、受講者が主体となって活動をする場面が多くなるため、「楽しかった」という感想で終わりがちです。
そのため、学習した内容は現場でどのように活かすことができるのか、現場に戻ったらどのような実践をするのか、ということを、研修の中で明確にしておく必要性があります。
まとめ
近年、アクティブラーニングは教育だけでなく、ビジネスの現場でも注目されるようになりました。
日本社会は、IT化や経済のグローバル化、少子高齢化といった変化の中にあり、ビジネスパーソンは、高度な問題解決力や処理能力で対処していく必要があります。
そのため、企業はこの厳しい社会に対応できる充分な能力を持つ人材を確保、または育成しなければなりません。
アクティブラーニングは、それが可能な教育手法の1つです。
ぜひ、人材育成のためにも取り組んでみるのはいかがでしょうか。