ISO30414とは
ISO30414とは、人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインのことです。
2018年12月に、ISO(International Organization for Standardization、国際標準化機構)が、人事・組織・労務に関する情報開示のガイドラインとして発表しました。
アメリカでは、人的資本に関する情報開示の義務化が進んでおり、日本でも人的資本に関する情報開示の動きが広まっていくと考えられます。
ISO30414は、11領域49項目にわたって人的資本に関する情報開示の規格が設定されています。
ISO30414が、注目される背景やISO30414の詳しい内容について解説していきます。
ISO30414が注目される背景
ISO30414が注目される背景には、
- 投資家による情報開示要求
- ESG投資・SDGsへの関心の向上
- 「人材版伊藤レポート」の発表
の3点が挙げられます。
投資家による情報開示要求
2008年のリーマンショック以降、財務諸表のみで企業の価値を判断することが、リスクとして捉えられるようになりました。
以前から、人的資本に関する情報開示をしている企業はありましたが、企業によって書き方がバラバラになっており、定性的・定量的に判断することは困難でした。
そこで、国際的なガイドラインであるISO30414に則って情報開示をすることで、企業も投資家も人的資本を定性的・定量的に判断することができるようになります。
ESG投資・SDGsへの関心の向上
ESG投資とは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の観点から投資することを指します。
財務諸表以外で、企業の成長性を判断して投資するESG投資の一環として、ISO30414に注目が集まっています。
加えて、近年ではSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)を掲げる企業も増えています。
企業の価値を判断する指標として、SDGsとともにISO30414に基づいて、開示された情報に重点が置かれています。
「人材版伊藤レポート」の発表
2020年9月に、経済産業省から「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書」通称「人材版伊藤レポート」が発表されました。
人材版伊藤レポートには、人的資本や人的資本に関する情報開示の重要性が、記載されています。
人材版伊藤レポートをきっかけに、人的資本に関する情報開示のガイドラインであるISO30414が、注目されるようになりました。
ISO30414の11領域と49項目
ISO30414で定められている11領域は、以下のようになっています。
- コンプライアンスと倫理
- コスト
- ダイバーシティ
- リーダーシップ
- 企業文化
- 企業の健康・安全・福祉
- 生産性
- 採用・異動・離職
- スキルと能力
- 後継者計画
- 労働力確保
コンプライアンスと倫理
コンプライアンスと倫理で定められている項目は、以下の5つです。
- 苦情の件数・内容
- 懲戒処分の件数・内容
- コンプライアンス・倫理についての研修を終えている従業員の割合
- 外部関係者とのトラブル
- 外部とのトラブルの種類とそれに対してのアクション
コスト
コストで定められている項目は、以下の7つです。
- 総人件費
- 外部人件費
- 平均給与と役員報酬の比率
- 雇用にかかる総費用.
- 採用1人当たりの費用
- 採用にかかる総費用
- 離職にかかる総費用
ダイバーシティ
ダイバーシティで、定められている項目は、以下の2つです。
- 労働者の多様性(年齢、性別、障がいの有無、その他)
- リーダー層の多様性
リーダーシップ
リーダーシップで定められている項目は、以下の3つです。
- リーダーシップに対しての信頼
- 管理下においている従業員の数
- リーダーシップの開発
企業文化
企業文化で定められている項目は以下の2つです。
- 従業員エンゲージメント・満足度・コミットメント
- 従業員の定着率
企業の健康・安全・福祉
企業の健康・安全・福祉で定められている項目は、以下の4つです。
- 仕事中の負傷、事故、病気による損失時間
- 労働災害の件数
- 労働災害による死亡者数
- 研修を受講した従業員数
生産性
生産性で定められている項目は以下の2つです。
- 従業員1人当たりのEBIT・売上・利益
- 人的資本に関する利益率
採用・異動・離職
採用・異動・離職で定められている項目は以下の14つです。
- 各ポジションの候補者数
- 雇用当たりの質
- 空きポジションを埋めるまでの期間の長さ
- 重要な空きポジションを埋めるまでの期間の長さ
- 将来に対する現状の人材充足度
- 内部充足度
- 重要なポジションの内部充足度
- 重要なポジションの割合
- 重要なポジションの空き割合
- 内部異動率
- 従業員の層の厚さ
- 離職率
- 重要なポジションの従業員の離職率
- 退職の理由
スキルと能力
スキルと能力で定められている項目は以下の3つです。
- 教育費用
- 教育活動の時間数・参加率
- 労働者のコンピテンシーの比率
後継者計画
後継者計画で定められている項目は以下の3つです。
- 後継者の有効率
- 後継者のカバー率
- 後継者の準備率
労働力確保
労働力確保で定められている項目は以下の4つです。
- 総従業員数
- フルタイム・パートタイムそれぞれの従業員数
- 外部からの労働力
- 休職者数
ISO30414に基づく情報開示のメリット
ISO30414に基づく情報開示のメリットには、
- 投資家への透明性の高い情報開示
- 人的資本の価値の向上
の2点が挙げられます。
投資家への透明性の高い情報開示
先述したように、投資家からは、人的資本に関する情報開示を求められるようになっています。
ISO30414に基づく情報開示は、投資家たちの要求に応えることができるようになります。
加えて、国際的に同一のガイドラインに則った情報になるため、過去や他社の情報と比較検討がしやすく、透明性の高い情報を提供することができます。
人的資本の価値の向上
ISO30414に、基づいた情報をまとめることで、企業側としても客観的に自社の人的資本の価値を判断することが、できるようになります。
そのため、現状の課題や課題の解決策が可視化され、人的資本の価値を向上させるための施策が考えられるようになります。
加えて、ISO30414に基づいた情報は投資家だけでなく、求職者にとっても企業を判断する材料になるため、採用率の向上を図ることができます。
まとめ
ISO30414は、ISO(International Organization for Standardization、国際標準化機構)が発表した人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインのことです。
ISO30414が、注目される背景には、投資家による情報開示要求やESG投資・SDGsへの関心の向上「人材版伊藤レポート」の発表といったことが、挙げられます。
ISO30414では、開示する情報を11領域、49項目にわたって定めています。
ISO30414に基づく情報開示には、投資家への透明性の高い情報開示、人的資本の価値の向上といったメリットがあります。
透明性が高く、定性的・定量的な情報を開示できるISO30414の内容をきちんと確認して、企業の価値を高めていきましょう。