会社が、何かの業務を行うときには、必ず意思決定が存在します。
会社には、意思決定を行う、課長・部長などの「長」がおり、一般社員はその人々の意思決定に従うというのが、従来の会社組織での、意思決定プロセスでした。
しかしながら、現代では、意思決定プロセスにおいて、担当者の権限や裁量を拡大した「アジャイルマネジメント」と呼ばれる手法があります。
「アジャイルマネジメント」とはどのようなもので、その導入にはどのようなメリット・デメリットがあるのか、そして「アジャイルマネジメント」を導入するには、どのようなことが必要なのかについて、この記事で解説していきます。
アジャイルマネジメントとは
アジャイルマネジメントとは、一言で言えば「社員に意思決定をさせる権限を与えて仕事を進める手法」です。
もともと、会社が組織として業務を進める上で、各社員は現場での業務や、担当範囲での業務を行うことはあっても、意思決定は上司にあたる部門長が行うことが一般的でした。
各社員は、部門長の意思決定を受けて、その決定を実現するために奔走するというのが、ビジネスの場面では当たり前に見られていました。
このような従来型のマネジメント手法を「ピラミッド型」と表現するケースもあります。
ビジネスの場面において、この「ピラミッド型」の組織で仕事をする場合には、担当者と意思決定権を持つ人、すなわち決裁権者が別にいることになります。
特に、企業間取引においては、このような「ピラミッド型」手法を用いている会社同士が契約を締結したり何らかの協定を結ぶ場合には、それぞれの担当者レベルではなく、決裁権者同士が納得していなければ実現しなかったのです。
一方、現代では、担当社員自身に意思決定権を与え、担当者の裁量で迅速に仕事を進めるための仕組みが注目されつつあります。
「アジャイル」とは、もともと「敏捷な・素早い」という意味を持つため、アジャイルマネジメントの真髄は、フットワークの軽さにあるといえます。
これまでの「日本型マネジメント」の問題点
従来のマネジメント手法である「ピラミッド型」組織では、意思決定権者は一人か、多くても2〜3人であり、それらの決定権者がこうと決めたら、決定した方針に応じて社内が動いていくという方法でした。
このような手法にも、もちろんメリットがあり、各担当社員は意思決定ではなく、決定権者に対して情報を提示し、最終的な責任は、決定権者が握っているという心理的安全性があります。
また、強力なリーダーシップやカリスマ性を持つ決定権者であれば、意思決定をしたらチームメンバーに適切・迅速な指示を下すこともできます。
しかしながら、プロジェクトの意思決定において担当者同士がミーティングを行っても、その場で、発展性のある段階に進むことができません。
お互い、自分の会社にミーティングの成果を持ち帰り、上司からの指示を仰ぎ、何度もミーティングを重ねなければならないというのはあまりにも時間がかかり、非効率であることが、問題視されていました。
加えて、近年では、日本企業が海外で、仕事をする場面が増えてきており、日本企業の担当者が、海外の企業の担当者と会合を持っても、何もその場では決定することができず、逐一日本の本社に確認を取って進めなければならないといった状態は、海外企業から見ても、日本企業の担当者自身から見ても、あまりに非効率です。
アジャイルマネジメントのメリットとデメリット
アジャイルマネジメントにおいては、まずその名前のとおり、意思決定の迅速さが最大のメリットとなります。
担当社員自身がよいと思ったものに対して、すぐにアクションを起こすことができますし、反対に課題点などがあれば、担当社員自身がすぐに解決に乗り出すことができます。
特に、担当者が長年同じ業務を担当しているような場合、ほぼ専門家と呼んで良いほどの専門性を持っている場合もあるため、上司よりも適切な判断を下すことができる場面もあります。
加えて、権限が与えられるというと同時に、責任も与えられるため、社員自身に当事者意識が生まれ、それによってモチベーションの向上も望めます。
一方、アジャイルマネジメントにも、デメリットがあります。
経験の浅い社員や、意思決定に際して自律的な判断ができない社員にアジャイルマネジメントを適用してしまうと、かえってスピード感が損なわれたり、間違った判断をした場合に、責任が本人に帰結してしまうという状況に陥ってしまいます。
また、ピラミッド型組織では、意思決定賢者にすべての情報や権限が集中していたため、プロジェクト全体での、タスク管理や進捗管理が容易であったものが、アジャイルマネジメントによってそれらの情報が分散し、組織として管理しづらくなるという問題点もあります。
アジャイルマネジメント導入に必要なこととは
先の項目においても解説したように、アジャイルマネジメントにはメリットだけでなく、デメリットもあります。
しかしながら、アジャイルマネジメントには、ピラミッド型組織にはないメリットがあります。
会社組織としてアジャイルマネジメントを導入しようとする場合には、どのような点に注意しながら導入を進めていけばよいでしょうか。
社員自身で、意思決定ができるよう教育する
アジャイルマネジメントの要である「意思決定」を、社員自身ができるように教育することが重要です。
従来型組織に在籍して働いていた担当社員にとっては、ある日突然「権限を与えるから責任も取るように」と言われても、どのように意思決定を行えばよいか困惑してしまうでしょう。
そこで、担当者レベルで進めていた業務を、自分が意思決定をする立場ならどのように進めるのか、という視点で社員を教育していくことが、アジャイルマネジメント導入にあたっての第一歩です。
情報収集の方法や、社外・取引先等との連絡手段、他社の意思決定プロセスについての情報共有などについても、現在の意思決定権者から引き継ぎを行うことが望ましいといえます。
また、責任を負わせるだけではなく、意思決定を行った社員に対して、成果を残した際に、適切に評価する仕組みも必要です。
これらは環境整備として、経営陣も含めて意思決定プロセスの変革を理解する必要があるといえます。
そして、意思決定とは別に、全社、あるいは部署としての現在のプロジェクトの進捗状況やタスクの情報を共有できる仕組みも作ると良いです。
これらは、かつては日報や朝礼などで共有されていた事例が多くありますが、現代においては社員ポータルサイトや、グループウェアなどのソフトウェアを利用する方法もよい選択です。
まとめ
従来型の意思決定プロセスにおいては、自分がどれだけ良いと思う業務提携の誘いやプロジェクトへの参画の話を聞いたとしても、会社に持ち帰り上司に報告したら一蹴されてしまった、というような経験を持つ社員が大勢いました。
そのような経験を繰り返した社員はやがて、自分自身で判断する力が徐々に失われていき、意思決定から遠ざかっていき、結果的に、モチベーションも徐々に低下していくという問題がありました。
アジャイルマネジメントは、自分自身が組織の一員でありながら、自分の意思決定によって会社の業務が進行するという「当事者意識」を社員に持たせることができます。
迅速さは、もちろんアジャイルマネジメントの要ですが、「担当社員」の位置づけ、そのものを大きく変革させるマネジメント手法です。
会社にとって、社員が当事者意識を持って業務にあたってくれることは長期的に見てプラスの面が多くあります。
アジャイルマネジメントを導入する場合は、まず必要な環境整備や教育体制を整え、社員が気持ちよく当事者になれる状態にしていくことが重要となります。