ハラスメント対策
現代のビジネスシーンにおいて、嫌がらせやいじめを意味する「ハラスメント」はいっそう悪質化、巧妙化、多様化しつつあり、スムーズな企業運営の大きな妨げになっています。
2020年厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワーハラスメントを受けたことがあると回答した人は31.4%でした。
また、都道府県労働局における2020年6月の「いじめ・嫌がらせ」の相談件数も2020年度には約8万件と、潜在的なハラスメントが常習化している会社が多いのが実情です。
ハラスメントの発生は、人的損失や、企業の信用やブランド価値が低下するリスクや、法的紛争に発展するケースなど、企業にとって重大なリスクを孕んでいます。
もはや、働きやすいクリーンな職場環境を整備するための「ハラスメント対策」は企業の義務になりつつあるため、今回は「ハラスメント」の種類や具体例、有効な対策をご紹介いたします。
ハラスメントの種類
パワーハラスメント(パワハラ)
職場で起こるハラスメントの代表としてまず思い浮かぶのが、社内の上下関係や権力を利用したいじめや嫌がらせ行為「パワーハラスメント」です。
上司から部下、先輩から後輩に対して行われるケースがの多い案件ですが、業務命令の名のもとに理不尽な過剰ノルマや、不公平なえこひいき評価など、指導との線引きが難しいグレーゾーンも多分にあります。
そして、パワーハラスメント(パワハラ)は、上下関係に限らず性格や性別、国籍などに影響された複雑な人間関係においても発生しているため、個別の対応や状況に沿った客観的な判断が必要です。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」とは、性的な言動や行動によって被害を被ったり、労働環境が害されたりするハラスメントのことです。
こちらも、業務上の権力を行使できる立場の人が立場の弱い人に行うケースが多く、性別や年齢、プライベートや容姿について不必要な発言をしたり、身体に触れたりする行為も含まれます。
男性から女性に対して行われることが多いハラスメントですが、近年では女性から男性、また同性同士で行われる場合もあり、問題がさらに複雑化しています。
セカンドハラスメント(セカハラ)
セカンドハラスメントとは、パワハラやセクハラなどを受けた人が、その後相談した上司や同僚から二次的なハラスメントを受けることをいいます
例えば、勇気を出して先輩や同僚にパワハラやセクハラの相談をしたにも関わらず、周囲からバッシングを受けたり、真実と違う誇張された噂を流されたりすることです。
加害者以外の人たちから精神的苦痛を与えられるセカハラは、被害にあった社員が誰にも相談できない環境をつくってしまうため、潜在的なハラスメントがなくならない原因の一つとなっています。
ハラスメント具体例
パワハラ具体例
「優越的な関係を背景とした、業務上の必要かつ相当な範囲を超えた言動により、就業環境を害する」ことをパワハラと認定しています。
例えば、
①大声を出して威圧的に叱責することを繰り返す
②新人に本日中の業務完了を指示し、フォローも無いため新人が昼休みも十分に休めず、夜遅くまで残業をしている
③自分の意に沿わない者を1人だけ別室で仕事をさせる、
などが挙げられます。
また、ちょっとしたミスや不手際に焦点を当て、不当な転勤や退職を強要したり、解雇をちらつかせたり、業務上必要な情報や助言などを与えない行為や、業務に関係ないことを強制的に行わせる行為は、普通の会社でもよくあるグレーゾーンです。
セクハラ具体例
「相手の意に反する性的な言動への対応を理由に不利益な取扱い、性的な言動によって就業環境を妨害」することをセクハラと認定しています。
例えば、
①性的な関係を拒否した者を解雇する
②人事考課を条件に性的な関係を求め、拒否した者の評価を下げる
③尻や胸に触る、抱きつく
などの行為です。
また、容姿及び身体上の特徴に関する不必要な発言や、うわさの流布、性的な話題をしばしば口にする、不必要な身体への接触、なども男女年齢問わずよくあるセクハラのグレーゾーンです。
セカハラ具体例
勇気を出して相談したにもかかわらず、仕事の協力を得られなかったり、逆に自分の非を指摘されたりすると、非常に大きなショックを受けてしまいます。
女性から女性へのセカハラの典型例は、セクハラや痴漢などの性的被害を受けた女性に対して「そんな格好をしているほうが悪い」「どうして二人きりになる必要があったのか」といった言葉です。
この言葉によって被害を受けた女性はさらに傷つき、誰にも相談できない苦しみでメンタル面のバランスを崩して休職したり、最悪の場合は離職したりするケースが考えられます。
ハラスメント対策
ハラスメント防止方針
ハラスメント防止方針とは、職場におけるハラスメントがあってはならない旨、ハラスメントに当たる言動、行為者への処分などを定めたものです。
就業規則の中に上記の内容を盛り込んだり、「個人情報保護方針」などと同様に社の方針として定めたりして、従業員に周知・啓発することが重要です。
会社側がハラスメントに対して意識を高く持っていることを従業員にアピールしておくことは、ハラスメントを未然に防ぐ効果が期待でき、離職率を下げることにもつながります。
相談窓口の設置
ハラスメントに関する相談・苦情に対応するための窓口を設置する場合、社内窓口の場合は経営者、役員、管理職などが、社外窓口を設ける場合は弁護士事務所、コンサルタント会社などが担当になります。
そして、ハラスメントに関する相談は、パワハラ、セクハラなどの区別なく、一体的に受け付けるのが望ましいとされており、ハラスメントが現実に生じていない場合も相談に応じることがポイントです。
ただハラスメントを許容する人が窓口になってしまうと、ハラスメント対策として全く機能しない名ばかりの窓口となり、逆に従業員のモチベーションを下げてしまうため、適正な窓口設置が望まれます。
事実確認し再発防止策の検討
事実確認とは、ハラスメントに関する相談が寄せられた後、実際にハラスメントに当たる言動があったかを確認することであり、相談者、行為者、第三者に事情聴取を行います。
ハラスメント発生の事実が確認できた場合は、速やかに被害者に対する配慮のための措置(配置転換など)を行い、行為者に対する社内規程に基づく処分を行うことが重要です。
ハラスメント発生の事実が確認できなかった場合もまた、疑わしい場合も、ハラスメント防止方針の内容を再度従業員に周知・啓発したり、再発防止に向けた措置を講じることが、対策として有効です。
まとめ
ハラスメントに関する相談・苦情に対応するための相談窓口の設置など、法律で決められた対策があるため、自社の特性を踏まえたうえで就業規則修正などの「ハラスメント防止対策」を確実に実施することが望まれます。
社内でハラスメントが発生した場合、そのリスクを最小限に抑えるためには、会社の誠意ある対応が必要不可欠であり、対策が不十分だと、被害者や家族が感情的になって法的紛争に発展してしまうケースも考えられます。
中小企業の場合、パワハラについては、2022年4月1日より雇用管理上の措置を講じる義務が企業に課されており、社会的にもハラスメント防止に対する意識がますます高まっています。
その他のハラスメントとして、マタハラ、パタハラ、ケアハラなど、多種多様なハラスメントがあるため、防止対策をしっかりと行い、発生を事前に防ぎたいところです。