「デザイン思考」とは、デザイナーがデザインを考案する際に用いるプロセスを、ビジネス上の課題解決のために当てはめ、ユーザー目線でサービスや製品の本質的な課題やニーズを見つけるための経営手法です。
デザイン思考は、AppleやGoogle、P&Gなどのグローバル企業において、早くから経営に積極的に取り入れられていて、日本企業でも近年、市場構造の変化を背景に一段と関心が高まってきています。
これまで、製品やサービスなどを開発する現場では、マーケットやユーザーニーズを調査し、仮説を設定し、いくつかの事例を検証して製品を開発するという、「仮説検証型」のアプローチが主流でした。
しかし社会構造の変化が激しく予測困難な今の時代では、このスタイルが通用しなくなってきており、リサーチを行っても、課題の本質を正確に捉えることが難しい「VUCA」(ブーカ)の時代を迎えています。
VUCAとは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の単語の頭文字をとった言葉であり、デザイン思考は今日の時代背景によって、その必然性を増しています。
デザイン思考5つのプロセス
デザイン思考の進め方にはいくつかの種類がありますが、スタンフォード大学のハッソ・プラットナー・デザイン研究所による、5つのプロセスから成るモデルが有名です。
プロセス1:共感 (Empathise)
まず、ユーザーの心情やニーズを探り、なぜそのサービスが欲しいのか、サービスを手に入れた先に何を求めているのかを想像します。
注意点としては「ユーザー第一主義」と「ユーザーに共感する」というのは似て非なるものであり、ユーザーが語る言葉を鵜呑みにするのではなく、自分がどんな感情を抱き、どのように思考をするのか、徹底的にユーザーなりきることが大切です。
まずはターゲットを良く観察し、共感できるポイントを探し出すと、背景や課題が見えてくるため、ユーザーインタビューやテストを繰り返し、コンセプトやアイデアがある程度固まってきます。
プロセス2:定義 (Define)
多くの場合、ユーザーは自分が求めているニーズの本質を理解していないことが多いため、「ランニングシューズを買いたい」という顕在的なニーズだけなく、その先の「ダイエットをしてスリムになりたい」という潜在的なニーズを最適な答えとする必要があります。
ユーザーインタビューなどで観察を行うことで、「ターゲットが困っていること」そして「なぜ困っているか」を明確にし、さらに掘り下げた観察をしながら問題の核心を見つけ出す必要があります。
場合によっては観察対象のミスマッチであったり、根本的な軌道修正が求められる場合もありますがチームメンバー全員の認識がぶれないように、最終的な形をゴールやコンセプトという形で定義しましょう。
プロセス3:概念化 (Ideate)
定義されたテーマは集団でアイデアを出し合うことによって相互交錯の連鎖反応や発想の誘発を期待する技法であるブレインストーミングの手法を使って概念化するのが一般的です。
質よりも量を出すことが重要なので、思いつく限りのアイデアを出し合い、その後、分類してブラッシュアップしていくことが重要です。
プロセス4:試作 (Prototype)
試作では、概念化したものがまず第一に動くように実装していくため、できるだけ時間とコストをかけずに、最初の試作品(プロトタイプ)を作ります。
プロトタイプは、今まで見えなかった課題点を浮き彫りにすることが目的であり、アイデアを実際に具現化することで、イメージが湧きやすくなります。
プロトタイプを使えば提案プレゼンの際に説得力が増しますし、裁量がある上長の承認を得やすいため、開発プロセスがスムーズであり、開発メンバーの技術的な実現可能性を推測できます。
プロセス5:テスト (Test)
プロトタイプとして製造したものを市場に試験的にリリースし、ユーザーから改善点や評価(フィードバック)をもらい、改めて洗い出したニーズに合致しているかをチェックします。
ここからターゲットに向けて検証・改善を繰り返し、試行錯誤しながら、最終的にクオリティの高いアウトプットを目指す必要があります。
検証項目が増え過ぎてしまう場合は、仮説に優先順位をつけ優先度が高いものから低いものまでバランスよく分類し、検証・改善のサイクルを小さく早く回すことで、精度が高まります。
デザイン思考のメリット
メリット1:アイデア提案の習慣化
「デザイン思考」では、「とりあえず”アイデアを出してやってみる」という姿勢が重視され、失敗の意識を持たなくても良いため、提案が習慣化しやすいと言えます。
そして「デザイン思考」はモノや仕組み、サービス、組織、ビジネスモデルなどに新たな考え方や技術を取り入れて新たな価値を生み出し、社会にインパクトのある変革をもたらす「イノベーション」にもつながります。
メリット2:多様な意見交換
「デザイン思考」では、多様な意見を受容することが要求される過程において、画期的な視点や発見を得られるメリットがあり、多様性が重視される現代において、社員に広がっていほしい発想でもあります。
多様性を持つユーザー中心設計の考え方である「デザイン思考」は、従来のような市場中心型のアプローチではないため、多様性の高い柔軟な全く新しいアイデアが生まれやすいとも言えます。
メリット3:チーム力の強化
「デザイン思考」はチームのメンバー同士でのコミュニケーションに重きを置いているため、アイデアを出し合う段階や試作品をつくり検証する過程で、お互いが協力し合う場面が必ずあります。
そして5つのプロセスにメンバー全員が参加し、役職や上下関係に関わりなく自由かつ公平に発言できる姿勢をチーム全員が意識することで、自然にプロジェクトに対する貢献意識も高まり、チーム力を強化できます。
デザイン思考の注意点
万能に思えるデザイン思考には、「ゴール」や「落としどころ」を設定しないという難点があり、ゼロベースで何か製品を作り出すにはやや不向きなところがあります。
そして、未発見のニーズはほとんどの人が気付いていないような、斬新な発想が求められるため、これまでの成功体験だけに固執したり、ありきたりな発想ではデザイン思考の最終的な検証までたどり着けません。
そもそも社会的に大きなインパクトを与えるような常識にとらわれない革新的な発想ができるメンバーがチームの中にいることが前提条件であり、それを許容する組織風土も必要です。
まとめ
「デザイン思考」は、複雑な小難しいアプローチではなく、ユーザーのニーズを探り、仮説を立てて検証するというサイクルを繰り返す、いたってシンプルなしくみを重視しています。
しかしシンプルにものごとをすすめることは実践では難しく、実際の組織でビジネスに取り入れるにはメンバーの意識付けが重要なため、フレームワークも参考にしながら、チームでデザイン思考の知見を深めていく必要があります。
そして、デザイン思考はサービスやプロダクトを設計する「デザイナー」だけに必要なスキルであるように感じられますが、全ての業種や職種に共通して必要な思考と言えます。
現代でインパクトを残すようなユーザーにとって価値あるサービスを作るためには時には誰も気づかないような問題解決の視点を持つことなので、組織の課題を解決するツールとしても活用できます。