近年、社内の人間関係を向上させる効果のある「ソーシャルキャピタル」が注目を集めつつあります。
しかしながら、事業をスムーズに進めることができたり、社内の人間関係を改善できるといった重要性を理解しているにも関わらず実行できている企業は少なく、具体的に自社へどう取り入れたら効果的なのかお困りの企業担当者も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、
- ソーシャルキャピタルとは
- ソーシャルキャピタルのイメージ
- ソーシャルキャピタルの重要性
- 企業でソーシャルキャピタルを実践する方法
- ソーシャルキャピタルの活用事例
- ソーシャルキャピタルを企業が取り入れるメリット
- ソーシャルキャピタルのデメリット
について解説します。
ソーシャルキャピタルについて理解し、どのような取り組みが成功しているのか、詳しく解説しています。
ソーシャルキャピタルとは
ソーシャルキャピタルは、直訳すると「社会資本」という意味です。
しかしながら、電気や道路、インターネットといった人々の生活基盤や経済活動を支える社会的インフラとは別の概念を示します。
厚生労働省の「ソーシャル・キャピタル」にて、アメリカの政治学者ロバート・パットム氏の定義を引用し、以下のように定義されています。
「ソーシャル・キャピタルとは、人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴のことを指す。」
「また、物的資本(PhysicalCapital)や人的資本(HumanCapital)などと並ぶ新しい概念を意味する。」厚生労働省「資料7 ソーシャル・キャピタル」
つまり、ソーシャルキャピタルとは、「人々の信頼関係や結びつき、ルールといった人間関係が資本になりえる」という考え方を示しています。
社会に属する人々が、ネットワークを構築することやボランティアを行うことで、新たな経済的活動や繋がりが生まれる効果が期待できます。
ソーシャルキャピタルのイメージ
ソーシャルキャピタルを理解する上で、より具体的な例をみていきましょう
具体例として、発展途上国に井戸を作るボランティアが挙げられます。
発展途上国に井戸を作るのに、必要となる資材(物的資本)と技術者(人的資本)が用意できれば井戸を完成することができます。
しかしながら、「ソーシャルキャピタルが乏しい場合」と「ソーシャルキャピタルが豊かな場合」で結果は大きく異なります。
ソーシャルキャピタルが乏しい場合
自治体や近隣住民との信頼関係(ソーシャルキャピタル)を築くことができていないと、井戸作りを始めた途端に迷惑だとその場から追い出されてしまう可能性はないとは言い切れません。
それだけでなく、地域社会内部でも協力関係が構築されていなかった場合には、地域内で井戸の奪い合いが起きてしまったり、完成した井戸を荒らされてしまうリスクもあります。
これらの課題は誰も望んではおらず、反対に回避したいものといえます。
ソーシャルキャピタルが豊かな場合
一方で、ソーシャルキャピタルが豊かだと井戸の必要性や井戸があることのメリットについての話しに耳を傾けてもらうことができ、井戸作りを支援してくれるでしょう。
加えて、地域社会内部が団結しお互いのことを尊重し合える立場であれば、井戸を巡った争いや荒らされることはありません。
それだけでなく、団結することによって共有し合い全員が心地よく使えるように協力して井戸の状態を技術者が去ったあとでも維持することができます。
このように、ソーシャルキャピタルが豊かであればあるほど得られるメリットは多くなっていきます。
ソーシャルキャピタルの重要性
現在では、健康から教育まで幅広い分野に用いられているソーシャルキャピタルを重要視する企業も増えつつあります。
企業がソーシャルキャピタルを重要視する目的として、
- 事業の円滑化
- 職場内の関係性改善
の2つが挙げられます。
事業の円滑化
ソーシャルキャピタルが生成されている企業では
- 職場内で自身の状況を正しく理解してもらえる関係性
- 職場のルールが正しく共有される関係性
- 同僚からの手助けを得ることができる関係性
といった関係を築くことが可能です。
これら3つの関係性を構築することによって、組織を円滑に運営することに繋げることができ、企業全体にプラスの働きかけをしてくれます。
職場内の関係性改善
企業と社会にどれ程の繋がりがあるのかを示すことができるソーシャルキャピタルを、社内の人事に活用すると、
- 報告・連絡・相談がしやすくなり、ビジネスを円滑に進めることができる関係を築くことが可能
- 従業員が困ったときに相談できる場所を確保することができる
というようなメリットを得ることができます。
ソーシャルキャピタルを用いることで、社内の人間関係が健全なものになり、従業員だけでなく会社全体のパフォーマンス向上に繋がっていきます。
企業でソーシャルキャピタルを実践する方法
ビジネスの現場でソーシャルキャピタルの効果を上げるためには、社員同士が強固な信頼関係を築いていく必要があります。
こちらでは、効果が期待できるソーシャルキャピタルの例として以下の4つをご紹介します。
- フリーアドレス化
- チャットツールの導入
- メンター制度の導入
- 社内交流会の実施
上記の内容を参考に実行してみましょう。
方法①:フリーアドレス化
まずは、「フリーアドレス」という、社内のオフィス環境を工夫することで、ソーシャルキャピタルを実践できる方法をご紹介します。
ここでの「フリーアドレス」とは、固定の席を決めずに自由な席で仕事ができる制度のことを言います。
日本の大手お菓子メーカー「カルビー」では、役員の個室部屋や会議室などのあらゆる個室に存在する「壁」を無くし、自由な働き方改革を目指す一環として「フリーアドレス」制度を導入しました。
従来の固定席による人間関係が狭くなりがちなデメリットが解消され、コミュニケーションの流動性を高めることに成功しています。
短期的に見ると、固定席により密なコミュニケーションを取りやすいメリットがあり、むしろ今まで取れていたコミュニケーションが疎遠になる可能性が考えられます。
しかしながら、カルビーの例のように、長期的な視点で考えると、「フリーアドレス」によって社内のコミュニケーションが円滑になり、発想の多様化が期待されます。
方法②:チャットツールの導入
私生活ではLINEを始めとしたチャットツールの利用が一般的になりましたが、ビジネスの現場でも導入が進んでいます。
木専門メーカー「大谷塗料」では、10代から70代まで幅広い年齢層の従業員が在籍しており、それゆえにFAXや手書きメモ、ショートメッセージ、Eメールなど様々な連絡手段が混在していました。
また、若手層とシニア層の交流不足も長年課題となっていたため、コミュニケーションツールの一本化を目的とし、チャットツールの「ChatWork」を導入しました。
製造現場にて「Chatwork」を導入した結果、タイムリーな意見が出される等、社内の一体感を向上させることに繋がっただけでなく、従来製造現場における情報共有不足に対する不満も改善することに成功しました。
大谷塗料の例にもあるように、メールや電話よりも気軽で迅速なやり取りができるため、業務効率化だけでなくコミュニケーションの量が圧倒的に増えるメリットがあります。
方法③:メンター制度の導入
人材の定着率を高める施策として、「メンター制度」が注目を集めています。
「メンター制度」とは、「メンティ」の新入社員に対して「メンター」の先輩社員が1on1でペアとなり、サポートを行う制度のことです。
興味深い事例として、「資生堂」のメンター制度をご紹介します。
資生堂では、経営陣がメンティとなり、若手社員がメンターとなる「リバースメンター制度」を導入しています。
「リバースメンター制度」では、若手社員が経営陣に対してITやコンピュータ関係の知識を共有する等、若手社員が持つスキルの活用やコミュニケーションの活性化に繋がっています。
メンター制度を通じて、新入社員の社内人脈を広げる効果が期待できます。
方法④:社内交流会の実施
最後にご紹介するのは、日本企業における社員同士の交流として主流である「社内交流」についてご紹介します。
近年の社内交流は、ただ飲み食いする会ではなく社員同士の交流に主眼が置かれています。
例えば、IT企業の「DYM」では、「社内飲み会推奨制度」と呼ばれる制度があります。
目標達成部署飲み会や月一の社長との飲み会、成績で上位15名だけが参加できる飲み会、部署決起会と言った様々な社員同士の飲みニケーションの機会が用意されています。
DYMのように、新年会や忘年会以外にも会社外で交流する機会が設けられており、役員や社長など普段関わりの薄い人とも人脈を広げることに成功しています。
ソーシャルキャピタルの活用事例
ソーシャルキャピタルは様々なシーンで活用することができ、導入している事業も多くあります。
具体的には、
- 保健総合センター
- 株式会社ガイアックス
- スプレディ株式会社
の3つが挙げられます。
事例①:保健総合センター
19万人以上の管内人口を抱える地域に設置されている保健総合センターでは、ソーシャルキャピタルを導入してコミュニティーを設置しています。
具体的には「健やか親子」「がん」「難病」「健康な地域社会」という4区分に分類され、合計13にもなるコミュニティが活動を行っています。
このコミュニティは主に、情報交換などの交流の場として機能しており、水平的なネットワークを構築することに役立てることができます。
事例②:株式会社ガイアックス
株式会社ガイアックスでは『Empowering the people to connect 〜人と人をつなげる』をミッションとして掲げている企業です。
株式会社ガイアックスは「人と人」「シェアリングエコノミーとソーシャルメディア」に注目し、社会の課題を解決することを目指すスターアップ企業です。
エンジニアリングやバックオフィス、事業開発や資金調達など多角的なサポートを行うことで若手の起業家を数多く輩出しています。
数多くの若手起業家を輩出することで、新たなスターアップ企業におけるソーシャルキャピタルを生成することに尽力しています。
事例③:スプレディ株式会社
スプレディ株式会社は『やりたいに出会い続ける世界をつくる』をミッションに掲げ、『人と組織の新しい”つながり”をつくるをビジョンに掲げている企業です。
スプレディ株式会社は、ソーシャルサービス「Spready」を開発した企業です。
Spreadyは、新しい事業にどんどん挑戦し続けたい企業と、自社にあった取り組みを行い続けたい企業がマッチングして、コミュニケーションを取ることができるコラボレーションプラットフォームです。
人同士だけでなく、企業同士でもマッチングできることによって、新規事業や新しい取り組みが産まれていきます。
このような活動を通してソーシャルキャピタルが形成されるのを支援しています。
ソーシャルキャピタルを企業が取り入れるメリット
ソーシャルキャピタルによる効果は企業においても期待されています。
こちらでは、ソーシャルキャピタルを企業が取り入れるメリットについて解説します。
- 離職率の低下
- 社内コミュニケーションの向上
それでは一つずつ見ていきましょう。
メリット①:離職率の低下
ソーシャルキャピタルを企業が取り入れるメリットの1つ目として「離職率の低下」が挙げられます。
例えば、ソーシャルキャピタルの一例である「メンター制度」を実行することにより、社内の人間関係が薄い新人の段階で、メンターの先輩との密な関係性を構築することができます。
実際、離職率が50%以上あった企業がメンター制度を取り入れることで、10%以下に抑えることに成功していることもしばしばです。
ソーシャルキャピタルは、人材の定着率を上げたい中小企業にとっても取り組むメリットが大きい施策と言えます。
メリット②:社内コミュニケーションの向上
ソーシャルキャピタルを企業が取り入れるメリットの2つ目として、「社内コミュニケーションの向上」が挙げられます。
例えば、ソーシャルキャピタルの一環として、社内交流や社内イベントを開催することで、普段関わりが薄い部署や役職の人と繋がるきっかけが生まれます。
新しいコミュニティが形成されれば、社内コミュニケーションの流動性を高めることができます。
社内の人間関係を構築しやすい環境を企業側で用意することにより、良好な人間関係や活発なコミュニケーションを実現します。
ソーシャルキャピタルのデメリット
一方で、ソーシャルキャピタルにもデメリットがあります。
デメリットとして、コミュニティ同士の対立を招く恐れがあるという点が挙げられます。
ソーシャルキャピタルが強力であればあるほど、他のコミュニティを排除してしまうリスクがあります。
例えば、カルテルや人種差別の活動を行うグループが現れてしまったとしましょう。
この場合には、対立したコミュニティつまり人種差別を良しとしないコミュニティと人種差別を良しとするコミュニティが形成されます。
対立したコミュニティが形成されるということによって、経済が回らなくなってしまったり、社会に参画する機会を奪われてしまったりとする危険性が高まると同時に、コミュニティ同士の対立も大きくなってしまうのです。
まとめ
今回、ソーシャルキャピタルの概要やメリット、成功事例について解説してきました。
ソーシャルキャピタルを取り入れることで、離職率の低下や社内コミュニケーションの向上など、社内の人間関係が良好になる効果があります。
一方でデメリットも存在するため、注意しながらソーシャルキャピタルを実践していく必要性があります。
今回ご紹介した企業の取り組み事例を参考に、自社でもソーシャルキャピタルを実践してみてはいかがでしょうか。