組織開発とは?
近年の日本企業は、「デジタル化・グローバル化の対応」「人材不足・後継者問題」「女性社員の活躍支援」「若手社員の早期戦力化」など、さまざまな難しい人事課題を解決すべく「組織開発」というアプローチが注目されています。
従来の日本企業では入社した企業でキャリアの大部分を過ごすことが一般的であり、また男性中心の組織であったことから、社員の価値観のずれなどは発生しにくい労働環境にありました。
ところが、現代の職場では社員の雇用形態や入社のタイミング、プライベートの価値観も多様化していますし、個々の認識や価値観のすれ違いも多く、上司が年下、女性、あるいは外国人と言ったケースも少なくありません。
こうした世の中の変化に対応しながら「個人間の関係性に着目し、健全に機能する組織にするためにはどう変革すべきか?」というアプローチが「組織開発」です。
組織開発の歴史
この言葉は英語では ”Organization Devleopment” 、略して OD と呼ばれ、1950年代からアメリカを中心に発展してきた概念であり、近年日本で注目されている理由は、終身雇用や年功序列制度の崩壊と、日本人の働き方の変化にあります。
1950年ごろから心理学や行動科学の研究をベースに発展した組織開発は「DOC(ディジタル・イクイップメント)社」の創業者、「 ケン・オルセン氏」 の事例が組織開発が注目される一つのきっかけになったと、いわれています。
オルセン氏は、マサチューセッツ工科大学(MIT)で修士号を獲得したのち、トランジスタを使ったコンピュータの技術を生かし1957年にDECを創業しましたが、エンジニア出身であったため経営についての助言を組織開発の第一人者、「エドガー・H・シャイン氏」に求めます。
心理学者でもあり、組織文化、キャリア開発にも精通していたシャイン氏の組織開発の手法は、創業社長であるオルセン氏のトップダウンになりがちだった社内構造を変革し、現場技術者の声を製品開発に活かすことで成長を確実なものとしました。
組織開発と人材開発違い
「組織開発」は、その言葉どおり「組織」に対してアプローチ(開発)するものですが、「人材開発」は個人のスキルや知識を向上させるなど、人材に対してアプローチを行うことを目的としたものです。
「組織開発」と「人材開発」では焦点となる対象が違いますが、組織のパフォーマンスは組織や人材が相互に関係しながら発揮されるものであるため、両者を切り離して考えることはできません。
組織開発の祖父クルト・レヴィン氏によれば、人間の行動は「個人の内的な特性要因」と「個人の置かれた状況や環境」との相互作用によって決まるとされ、「個人の置かれた状況や環境」とは、企業で言えば雇用条件や職場環境、人間関係などにあたります。
個人と組織のパフォーマンスを向上させるためには、当然ながら人材開発と組織開発の両方が必要であり、個人のスキルや知識を高めるには、組織の中で個人同士の関係性を深めていくことが最も効果的です。
組織開発のプロセスとフレームワーク3選
1.ミッション・ビジョン・バリュー
ミッション・ビジョン・バリューとは、組織を成長させる礎となる「企業理念」を構成する3つの要素①mission:存在意義②vision:目指す姿③values:行動指針のことであり、「MVV」とも呼ばれています。
・ミッション(mission)
日々果たすべき使命を「ミッション」と定義し、過去現在未来のどの地点でも、日々ミッションを中心とした事業運営と、自らが貢献すべきものを見つけ出す組織づくりを行います。
・ビジョン(vision)
「ビジョン」はミッションが実現した姿「将来像」と言い換えることができ、リーダーが自社の目指すイメージをわかりやすく組織の人間に伝えることができれば、組織の人間は実現に向けてリーダーの求心力に巻き込まれていきます。
・バリュー(values)
バリューとは、「価値」「価値基準」のことを指し、組織のメンバーがビジョンを共有し、ミッションを実現するためには明確な「組織の価値基準」が必要です。
2.タックマンモデル
タックマンモデルとは、心理学者のタックマンが提唱したチームビルディングの手法であり、チームメンバーが「形成期」→「混乱期」→「統一期」→「機能期」→「散会期」の5つの成長段階を経て、目的を達成するまでのステップをモデル化しています。
5つのプロセスを経たメンバーは、衝突や混乱を経験することでお互いの価値観やアプローチを理解し合い、結束力のある強いチームへ成長すると考えられています。
・形成期
形成期は、まだチームのメンバー同士がお互いをよく知らないため、「業務で誰がどのような役割や責任を担っているのか」についてしっかりと把握できているわけではありません。
・混乱期
実際に、プロジェクトが開始すると仕事の進め方がわかるようになってくるため、そのなかで、チームの目的や目標に対する認識の違いが出てきたり、意見が食い違ったりすることもあります。
・統一期
混乱期を乗り越えると、チームが目指すべき目的や目標を正しく把握し、メンバーそれぞれの役割や責任が共有されるようになり、チームに統一感が生まれはじめている状態です。
・機能期
さらに発展してチームとしてまとまりをみせながら、メンバー各自も高い自立性を備えて行動できるようになっているこの段階では、適切にフォローする必要はありますが、どちらかというとメンバーの自発性を促すようなかかわり方にシフトするほうが、より強いチームとしてまとまるようになります。
・散会期
目標達成できているため、メンバーそれぞれのスキルも向上し、個々人が別の仕事のプロジェクトや必要な部署への移動を行う時期であり、その時、メンバー全体が満足感を味わっている状態が理想です。
3.アプリシエイティブ・インクワイアリ―(AI)
「肯定的な質問」を用いて組織や個人の価値を見出し、可能性の拡大を図ろうとする手法は「ポジティブ・アプローチ」とも呼ばれ、組織の欠陥や弱みを解決する問題解決的なアプローチとは異なり、強みや可能性などのポジティブな答え「4Dプロセス」回すことで探求を進めます。
発見:Discovery
「何が活力を与えているか?」→個人と組織の本当の強みや価値を発見する
夢:Dream
「どうなれるか?」→変革に向けて、組織の最高の可能性を自由に想像する
デザイン:Design
「どうあるべきか?」→達成したい状態を共有し、記述する
運命:Destiny
「どのように学び、対応するか?」→達成に向けて、持続的に取り組む
まとめ
実は組織開発に用いられているフレームワークやアプローチは上記以外にも何種類もありますが、組織の課題や目標にあわせて適切に使い分けたり複数種類を組み合わたりすることが醍醐味です。
そして組織開発は組織のパフォーマンスを最大化させるのが狙いであり、組織の仕組みを改善することで、意思決定のスピードや生産性が向上し、最終的に企業力強化につながるような組織づくりを目指します。
組織のパフォーマンスを最大化できれば、社員一人ひとりが活躍できる組織となり、そこで働くことに意義を感じてもらうことで、より自社に貢献しようとする向上心につながります。
組織開発は、各人材が本来の能力を活かして活躍できる組織を作り出すための取り組みであり、多様化する人材の有効活用と人員の安定化を同時に目指すことができるのです。