UXデザインとは?
UXデザインの定義
UX(ユーザーエクスペリエンス)デザインは、製品やサービス、システムの利用を通じて、ユーザーが得る全ての「ユーザー体験」の設計を意味します。
ここでいう「ユーザー体験」とは、製品やサービスを知ってそれらを購入し、使用した結果得られる感想までを含みます。
例えば、おしゃれなカフェに足を運んだとしましょう。そこで得られるのは、単に飲み物や食べ物だけではなく、日常生活の延長上にある少しリッチな空間ではないでしょうか。バリスタなどの専門家に自分のための一杯のコーヒーを淹れてもらい、おしゃれなインテリアに囲まれてゆったりとした空間の中で、読書を楽しむ人もいらっしゃるかもしれませんね。それらの一連の行動を予測し、ユーザーの「楽しい」「心地よい」という体験を得られるようにユーザーの行動を導くのが、UXデザインの本質と言えます。
製品やサービスが長く愛されるようにするには、ユーザーの日常から製品やサービスに対する「正しいニーズ」を理解し、体験をデザインしてそれを商品に反映させなければなりません。
UXデザインは「使いやすいデザイン」「表面的な美しさ」のみを意味するのではありません。それらを含め、商品やサービスとのファーストコンタクトからユーザーのリピーター化やロイヤル顧客化まで行動を設計し、ユーザーを導く設計が、UXデザインなのです。
UXデザインの身の回りの使用例:インスタグラム
インスタグラムは若者を中心として広く利用されているSNSですが、機能自体は非常にシンプルです。
それにも関わらず需要が多いというのは、UX(ユーザー体験)が非常に深く関わっていると考えられるでしょう。
インスタグラムのUXは、写真の投稿以前に写真撮影からスタートします。
次に、撮影した写真を投稿してそれを他のユーザーと共有し、「いいね」やコメントをもらって感動を分かち合います。
さらにその後、別の写真を撮ってアカウント内の投稿を充実させていく。
これが、インスタグラムの主なUX(ユーザー体験)であり、最大の魅力だと言えるでしょう。
つまり、エンドユーザーは「写真を投稿する」という行為そのものに喜びを感じているのはなく、その後に続く「撮った写真を共有できる楽しみ」「反応を貰える喜び」を体験できるので、インスタグラムを使用していると考えられます。インスタグラムのサービスの最大の価値は、機能そのものよりも、ユーザー体験にあるのです。
UIデザインとの違いとは?
UX(ユーザー体験)と双璧をなす考え方として、「UI(ユーザーインターフェイス)という考え方があります。ユーザー目線に立ったときに、アプリ内の表示などが直感的に捉えやすく、欲しい情報にすぐにたどり着けやすい設計だったとしましょう。この設計をデザインするのが「UIデザイン」だと言えます。
ただし、その際に複雑なデザインを設計してしまうと、「使いにくい」と感じたユーザーの離脱を招きかねません。このような事象を防ぐには、ユーザーが迷うことなくメニューボタンを見つけられる、申込みボタンを目立たせるなどの工夫が必要です。また、どのページからでも楽にトップに戻って操作をやり直せるなどの構想もあると良いでしょう。
「トップページ」に戻るという視点に立った場合に、よく見かけるのは「家のマーク」ではないでしょうか。通常家のマークは「ホーム画面」を意味することが多く、ユーザーが深く考えなくても直感的に「トップ画面」だと感じる設計です。仮に「矢印」のマークなど、ブラウザバックのボタンだったならば、混乱するのではないでしょうか。
もっとも、これは「UX(ユーザー体験)」の一部に過ぎません。UXデザインの一部にUIデザインが包括されており、UIを通したやり取りを通してユーザーの体験に結びつくことを、しっかり理解しておくべきでしょう。UXデザインの設計をしっかりと行うことで、UIデザインの方向性も自ずと見えてくると言えます。
UXデザインの作成手順とは?
1,顧客の声を調査
UXデザインにおいて、まず必要なのは「ユーザーニーズ」の調査です。データ分析だけでは得られない、ユーザーの潜在意識に基づく行動や価値観のリサーチが必要と言えるでしょう。
調査するべき内容は、「対象ユーザーそのものについての調査」「ユーザーのニーズを探るための調査」「自社製品・サービスに関するブランド調査」「市場の中での競合調査」などです。さらに、
調査手法としては、ユーザーインタビュー、アンケート調査、アクセス解析などが挙げられるでしょう。
2,顧客の声の分析
必要なデータが集まったら、別途作成していたペルソナの設定やカスタマージャーニーマップを元に、製品やサービスの企画を立案します。
経営戦略とユーザーの求める体験の実現やマッチングを図るためには、必要な商品やサービスの要素を明確化しなければなりません。
また、共同作業となるため、ブレインストーミングやスケッチ、ムードボード、ワイヤーフレーム(遷移図)を活用して、デザインの認識を全員で共有するのが望ましいです。
3,仮のUXデザインの作成
次に、浮かび上がった課題に対して解決策のアイデアを集めます。それらを元に、プロトタイプ(試作品)を作成していきましょう。ただプロトタイプを作成して終わるのではなく、プロジェクトメンバーで企画の意図に沿った通りの体験が得られるかどうか、使い勝手などを検証し、プロトタイプの修正を重ねていくと良いでしょう。
さらに、プロトタイプをユーザーに実際に体験してもらい、ユーザーテストの結果をヒアリングしてさらに修正することもあります。
4,効果測定
プロトタイプを商品にするには、「商品がユーザーニーズを満たすものであるか」「商品の本来の目的に適合したものであるか」という検証が不可欠です。
社内などで検証結果を視覚化するには、ストーリーボード、モックアップ、ユーザーストーリーマッピングなどを作成し、それに沿っているか検証すると情報を共有化しやすいでしょう。
UXデザインに必要な経験・スキルとは?
マーケティング
UXデザインの特性を考慮すると、マーケティングの知識は必要不可欠と言えます。
UXデザインは、ユーザー視点に基づいた設計が優先されますが、ビジネスとして展開する以上、利益も追い求める必要があります。
UXデザインを設計するにあたり「ビジネスモデルとして成立する製品やサービスを生み出すために、効率的な予算分配やお金の流れを考えられる」というのは、大切なスキルです。
実際にマーケティングスキルが活用できる場面としては、市場調査などの後に、企画を実行に移すための分析段階で、スキルが活用できます。
ブランド戦略の経験
マーケティング戦略の中でも、ブランディングに携わった経験があると、UXデザインに考え方を応用できます。
ブランディングの用語の中に、「ブランドエクスペリエンス(ブランド体験)という言葉があります。これは一般消費者がブランドを知り、ブランドに対して愛着や親近感などの感情移入を経て商品やサービスを購入し、リピーターやロイヤル顧客になるまでの流れを表す言葉です。考え方としては、非常にUXに近いと言えるでしょう。
もっとも、実践方法としてはプロモーションを仕掛けるなど、UXデザインとは異なるアプローチ方法も含みます。そのため、ブランド戦略の手法が直に利用できるわけではありません。ですが、ブランドと生活者や消費者への関わり方の構図や流れをイメージしやすいという意味においては、活用しやすいスキルです。
ユーザーインタビューの経験
製品・サービス開発のリサーチ段階で、必要となるスキルです。一般ユーザーからできるだけ多くの情報を引き出すためには、Yes/Noで答えられるクローズエンドの質問を避けるのが良いとされています。例えば、「どのようなサービスがあると嬉しいか?」など、相手の意見を引き出しやすいような、オープンエンド型の質問を用意しておきましょう。
それらに加えて、インタビュアー側からの視点だけではなく、製品・サービスをテストしたユーザーとして、モニタリング経験もあるとより具体的な案を提示できます。
Googleアナリティクスが使いこなせる
UXデザインは、幅広い分野において必要な工程だと言えます。特に現在では、Webサービスやアプリサービスを通じてさまざまな体験を得られる仕様になっていることから、分析ツールとしてGoogle Analyticsの知識や活用は、必須だと言えるでしょう。
Google Analyticsではユーザー属性を始め集客サマリーやユーザ獲得、トラフィック獲得、エンゲージメント、コンバージョン率などのデータが入手できます。
これらのデータを活用することにより、よりユーザーのニーズに近づけたUXデザインを設計することが可能なのです。
SEOの知識、経験
Google Analyticsと一緒に語られることの多いSEOですが、これもWebサービスやWebサイトのUXデザインの改善などには必要なスキルです。
SEOは「検索エンジン最適化」と訳されることが多いですが、現在Googleを利用した検索方法が主流であり、検索順位が上位に表示されるほど、自社サイトが一般ユーザーの目に触れる機会が増えると考えられています。
SEO対策としてGoogle AnalyticsやGoogle Search Consoleを利用している企業やサイトは多く、それらのデータを元にデザインの改善を図る方法が主流と言えるでしょう。
このような現状を踏まえると、どれほど良いUXデザインを作り上げて実装したとしても、まずユーザーの目に触れる機会を増やさなければ、意味がないのです。
UXデザインの重要性とは?
ここまで見てきたように、現在のユーザーは「ブランドから得られる体験」を重視していると言えます。
もっとも、ユーザーにとっての使いやすさを意味する「ユーザビリティ」に似ているように捉える方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、ユーザビリティが「使いやすさ」だけを意味するのに対して、UXデザインは使いやすさを追求した結果として、ユーザーが得る「心地よさ」を最終目的にしている点で、異なります。
また、UXデザインは新規事業開発との相性の良さにも注目するべきでしょう。UXデザインの効果は、従来の体験では得られなかった付加価値の発見や、新たな顧客層の開拓、ビジネスモデルの開拓などにもつながるものです。それだけにとどまらず、量的な評価や質的な学びも得られることから、企業の事業実績向上にも、大きく貢献してくれるものなのです。
UXデザインの成功事例とは?
株式会社ほぼ日
株式会社ほぼ日の動画コンテンツサービスである『ほぼ日の學校』において、コンテンツ開発会社である「モンスターラボ」によって、ユーザーストーリーが制作されました。
2018年1月に古典を学ぶための場所として誕生した同サービスですが、「人に会い、話を聞くこと」によって得られる体験を重視し、講義の幅を拡張しました。
より多くのユーザーが同サービスを利用できるように、スマホアプリを開発するなどの工夫を凝らし、エンターテイメントとしての学びの体験を重視しているのが特徴です。
開発の段階では、ユーザーの生活の中でアプリがどのように活用されるのか、シミュレーションを重ねながら、ユーザーストーリーが制作されました。
「ほぼ日」らしいユニークなアイデアも取り入れながら、登録フォームなどユーザー離脱につながりやすい項目で、ユーザビリティを重視した設計が行われています。
Shake Shack
シェイクシャックのこだわりは、今までよりも簡単にフードやドリンクを注文できるデジタルツールでありながら、これまでブランド力やサービスの質を低下させないことでした。
言い換えれば、さまざまな場面でのインタラクションにおいて、シェイクシャックでなければ得られないブランド体験を目指したのです。
具体的には、注文から始まりカウンターに商品を受け取りに行くまで、店内におけるあらゆる顧客体験を分析するところから始めました。さらにその分析結果を、注文後の待ち時間の短縮、ユーザーの不満や混乱を取り除く設計に役立てたのです。
それだけにとどまらず、サービスの質や売上を低下させずに店頭での注文を合理化出来るキオスク端末を開発し、持続的な分析や定期的な見直しを図りました。注文プロセスをスムーズにしただけではなく、「おすすめ」機能を搭載し、複数の商品の購入機会や顧客ごとの需要に答えるサービス提供も可能になりました。
さらに、ブランドイメージにマッチしたレイアウトやビジュアルも、ユーザーのタッチポイントごとに取り入れるなど、ビジュアル面でのデザインにおいても、顧客体験の質を向上させています。
モデルケースとなった店舗では、人件費を削減できただけにとどまらず、顧客単価も15%増加させており、収益の上でもプラス効果をもたらしたと報告されています。
LINE
スマホで最も利用されているSNSサービスの一つに、LINEが挙げられます。従来のメールサービスと異なり、一つの画面で会話の流れを把握しながら、コミュニケーションが可能な点が、高く評価できるでしょう。
また、吹き出し形式のUIが採用されているので、実際の会話に近いリアルな感覚を大切にしているところも、誰でも使いやすいデザインと言えます。
さらに、会員登録の手順が少ない、明確なターゲットやペルソナを設定せずに誰でも最初から使いやすいデザインであるなど、幅広い年代のユーザーの利用にに適していると言えるでしょう。
また、従来の「文字テキスト」だけではなく、スタンプの利用で気軽に返答できる点も、魅力の一つです。
SmartNews
SmartNewsは、スマホ専用のニュースアプリです。アクティブユーザーを増やすために、アプリをダウンロードした直後のUXデザインの改善に取り組みました。
一例として、インストール直後はデフォルトのニュースタブが表示されています。
ですが一度インストールしてしまった後は、多数のニュースチャンネルの中から好みに応じて、チャンネルを登録したり削除するなどのカスタマイズが可能です。
ただし、カスタマイズの際のチャンネル登録の操作ミスで、ユーザーの意図に反して、解除してしまうケースが報告されていました。
そこで、UXデザインサービスを展開する企業のアドバイスなども受け、聞き取り調査やユーザーテストを実施して、カスタマージャーニーマップを作成しました。
それに基づき、初期操作のチュートリアル上の負担を軽減したり、プッシュ通知を許可するまでの設計を見直しました。さらに誰でも分かりやすいように、興味を引くようなアニメーション表示を取り入れるなどして、必要操作のスキップを防止し、改善に務めました。
クックパッド
クックパッドのアプリは、ユーザーの利用体験が継続的なものになるように、設計されています。
例えば、「料理きろく」という機能はスマホから料理の写真だけを自動で抽出して、毎日の料理記録を作成できる機能が搭載されています。
自分で献立記録を作成する必要がなく、ユーザーも自分で家族の栄養管理や献立作成をしやすい設計なのが特徴と言えるでしょう。
「料理きろく」だけではなく、気になったメニューを保存しておける「クリップ機能」や「トレンド」機能など、良質なユーザー体験を生み出す工夫が、随所に見られます。
クックパッドが他の料理アプリとの差別化を図っているのは、ユーザー体験を重視したデザイン設計だというのも、非常に大きいと考えられるでしょう。結果として、クックパッドのユーザー数は国内でもトップクラスであり、料理アプリの中でもユーザー数は1位です。
スターバックス
アメリカ発のスターバックスは、世界中に店舗を展開するコーヒーショップですが、UXデザインが優れていることでも有名です。
元会長兼社長兼CEOのハワード・シュルツ氏の、「スターバックスはコーヒーを売っているのではない。体験を売っているのだ」という言葉は、広く知られているところでしょう。
この言葉に表されるように、スターバックスの店舗は「第三の場所」として位置づけており、日常生活に根ざしながらも、少しだけ贅沢なひとときを提供する場として、ブランディングに成功しています。
従来のカフェやコーヒーショップでは、店員にレジでコーヒーの金額を支払い、コーヒーを受け取るだけにとどまっていました。
ですが、スターバックスではその常識を覆し、コーヒーのスペシャリストである「バリスタ」が商品を提供するのが大きな特徴です。
さらに、タッチポイントである「コーヒーの受け取り場所」においても、おしゃれなランプを掲げる、コーヒーを淹れている様子が見えるなどの工夫が施されています。
メニュー自体も「ラテ」「モカ」「エスプレッソ」などアレンジコーヒーのグループごとにメニューとして提案されており、飲み方を決めやすいのもユーザビリティを重視していると言えるでしょう。
また、スターバックスに足を運ぶと、ゆっくり読書をする人や、パソコンの作業に打ち込むノマドワーカーなどを見かける機会も多いのではないでしょうか。
彼らはコーヒーだけが目当てなのではなく、「ザ・サードプレイス」としてスターバックスを利用しており、カフェ空間の中での体験を重視していると考えられます。